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464.遺伝子解析と弁証論治

同じ薬を使っても、人により効果が出る人と出ない人がある。
違いは何だろうか?
それは生活習慣と遺伝子の違いだと思う。
実は中医学は昔から、生活習慣と遺伝子を認識していた。
遺伝子という言葉はこそ使わないが「先天の精」という概念があった。
これに生活習慣を加えて、一人ひとりの体質が出来る。
つまり先天+後天=体質となる。
同じ病気でも体質に応じて薬を使い分ける。
これを「弁証論治」と言う。
そうすると、効き目も良いし副作用も少ない。

今までの西洋医学には体質に応じてという考え方はあまり無かった。
最近になって、同じ薬を使っても効果が出る人と出ない人がいるのは何故かという事が議論されるようになって来た。
その原因として遺伝子の違いが認識されるようになって来た。
手法は違うが、西洋医学もやっと弁証論治の考え方を取り入れるようになって来たのだ。
これは非常に良い事だと思う。
弁証論治は中医学だけでなく、西洋医学にももっともっと取り入れられるべきだ。
そうすれば、投与する前から効く薬と効かない薬の区別がつく。
これこそが中医学の弁証論治の精神なのだ。


463.自己相似

図形で自己相似という概念がある。
例えば、シダ。
シダの葉っぱの一部分をちぎって拡大すると、もとのシダの形によく似ている。
一部部が全体と同じ形をしているものだ。
中医学にもちょっと似た概念がある。
例えば、耳。
耳の形は、赤ちゃんが下向きになった形に似ている。
そして、そこに色々なツボがある。
耳の中に全身のツボがあるのだ。
目も、黒目は腎、白目は肺などというように全身の縮図になっている。
舌も、手も足もそうだ。
体の一部分でありながら、全身の縮図になっている。
もっと外を見ると、人間は宇宙の縮図だと言っている。

西洋医学的にも、一つの細胞の中に染色体があり、それがなんと体そのものの縮図になっている。
このように自己相似というものが人間の体にも存在するのだ。
何と面白い事ではないか。

462.弁証論治の必要性は副作用回避

中医学の考え方に「弁証論治」がある。
証とは、体質と病状をあわせたもの。
病気の人がいた場合、その人の証を判断するのが大切という訳だ。
そして証にあわせた治療計画をたてる。
それが論治の部分だ。
弁証論治は漢方の治療効果を上げるのに不可欠なものだ。
ただ、それ以上に大切なのは副作用の回避だ。
よく漢方にも副作用があると言う人がいる。
もちろん、全く無いとは思わないが、その多くは弁証論治をしていないためだ。
漢方には潤すものと乾かすものがある。
体内の潤いが少ない津液不足や陰虚の体質の人が乾かす性質の漢方を長く続けると体内がよけいに乾燥して炎症がおこりやすくなる。
漢方の副作用に記載されている炎症系の副作用は、弁証論治せずに漢方を使った結果だと思う。
体内に余分な水分が多い体質の場合に潤いをもたせるものを長く続けるとむくみが出たり、尿量が現象する場合も考えられる。
こういった事は舌とか脈をみると判断できるのだが、弁証論治せずに、この病気ならこの漢方といった使い方をすると効き目が出ないだけでなく、色々な問題がおこる。
これを簡単に漢方の副作用と片付けてしまうのはどうかと思う。


461.無症状の弁証論治

通常は病気になるといくつかの症状が現れます。
また、舌や脈に変化が出ます。
これらの変化を中医学では四診によってとらえ、弁証論治します。
しかし、いくつかの病気は、症状がなく、舌や脈の変化も無い場合があります。
例えば、子宮漿膜下筋腫の場合とか、ごく初期のガンなどです。
これらの場合は、西洋医学の診断を使います。
例えば、子宮筋腫は、「痰瘀互結」と考えます。
この場合の瘀血は普通の瘀血と違い、陳旧瘀血と考えます。
痰も痰湿というより、頑痰と考えます。
そして、陳旧瘀血や頑痰に対する方剤を使います。
治療効果で出たかどうかは、舌や脈だけでは判断できないので、エコーやMRIの診断を参考にしていきます。
このように中医学は古い医学で診断という部分では西洋医学にかないません。
しかし、治療という方面から見ると、まだまだ利用価値がある医学です。
西洋医学の診断を活用した中医学の発展が望まれます。

460.料理と方剤

料理と処方は良く似ている。
美味しい料理は、色々な味がするが全体としては一つにまとまり、まるで良い音楽を聞いているかのように心地が良い。
すぐれた処方は、しっかりとした方向性を持っているが、それだけでなく他の方面にも気を配り、バランスよく配合している。
これを君臣佐使と言う。
君薬は主薬とも言い、その処方の方向性を決定している。
多くは処方の名前に主薬の名前が含まれている。
臣薬は、君薬を助ける。
この場合、君薬と同じ作用の場合もあるし、君薬には無い作用のものもある。
佐薬も君臣を助ける場合もあるが、多くは君薬とは違う作用のものを使い、処方独特の味付けをする。
砂糖と塩の関係のようだ。
そして、使薬は、病気の場所に薬を運ぶ。
また、全体を調和させる作用のものもある。
君薬 砂糖、臣薬 酢、佐薬 塩、使薬 胡椒
こんな感じではと思う。
ただし、処方は料理ではないので、良い処方が美味しいとは限らない。

459.常識は人によって違う

ある人が常識だと思っている事が、他の人には通用しない事がよくあります。
体質もそうです。
ある人が健康に良いと思ってやっている事が、別な人には良くない事もあります。

例えば、朝食は食べた方が良い という常識。
一般の人には当てはまりますが、脾虚の人は朝から食べられません。
消化酵素が働かないのに食事を詰め込んでも消化できないだけです。
このような人はおかゆなど消化の言いものを適量とるのが良いでしょう。

お酒の量、運動量、水の量なども個人差が大きいです。
どうしても自分のモノサシで他人を測ってしまう傾向があります。
一人一人の個性を考えて生活していく事が大切だと思います。

中医学は弁証論治といって、個人差を大切にする医学です。
同じ病気でも体質が違えば使う薬も違ってきます。
人間は機械ではありません。
機械のようにみな同じでは無いのです。

458.検査値と中医学

検査値の中で、体温、心拍数、など測定する機械がなくてもある程度解るものもあります。
ただ、多くのものが測定する機械だったり試薬が必要です。
そういった機械や試薬は中医学が出来たころにはありませんでした。
その代わりに発展していったのが舌診と脈診です。
中医学は、西洋医学のような検査結果が無くても、症状と舌診、脈診で弁証論治して体にあう処方を決める事が出来ます。

しかし、最近はどうしても検査値を重視するようになって来ました。
それで最近は中医の診断に西洋医学の検査値も取り入れられて来てはいます。
ただ、まだまだ発展途上です。
中医学の発展は西洋医学ほど急ではありません。
百年単位くらいで進歩します。
それは短所でもあり、長所でもあります。
長所というのは安全性です。
百年かけて臨床実験が行われると考えてみてください。
漢方薬はいかに安全かという事が解るでしょう。

短所は、西洋医学の検査値に中医学はまだまだ対応出来ていない事です。
例えば血圧に良い漢方、コレステロールを下げる漢方、肝機能や腎機能を改善する漢方などの需要が高まって来ています。
中医学では、これらの数値をもとに処方する方法は試行錯誤の状態です。
今、多くの中医師がどうすればこれらの数値が改善するか試行錯誤の状態です。
ただ、どんなに中医学が進んでも、検査値だけでなく体質に応じて処方する弁証論治は残っていくと思います。

457.潤い不足は水を飲めば解決するのか?

中医学で、潤い不足を津液不足と言います。
津液は「しんえき」と読みます。
津液はただの水ではありません。
いろいろな栄養が含まれた、体に必要な潤いです。
確かに、水分が不足すると津液も不足します。
このようなものは一時的なものです。
もう少し、本質を考えると、津液不足は、栄養不足と水を保持する力の不足です。
栄養を含まないサラサラした水は、体内にとどまらずすぐに出て行ってしまいます。
栄養が含まれた水は、細胞の中や血液の中に入ります。
またリンパ液の原料にもなります。
さらに栄養のある水を保持する力も大切です。
津液不足の代表に麦味参顆粒があります。
麦門冬と人参は潤いを助ける作用があります。
人参には津液だけでなく気を補う作用もあります。
五味子は潤いが逃げないように保持する作用があります。
この五味子の作用のおかげて麦味参顆粒はただ潤すだけの処方よりも効き目が良いものとなっています。

456.目はどうして肝になったのか?

中医学では肝は目に開竅するとなっている。
開竅の意味はわかりにくいが、出入り口のようなものと考えてみて欲しい。
肝という臓器の様子は目に現れるという意味だ。
どうしてこのようになったのだろうか?
「鳥目」という病気がある。
これはビタミンAの不足なのだが、昔の人はビタミンAなんて知らない。
ビタミンAが多いのは、レバーだ。
あるいはヤツメウナギの肝。
どちらも肝臓だ。
肝臓を食べると目が良く見えるようになる。
おそらく、そんな単純な理由から肝と目が結びついたのでは無いかと思っている。
昔の医学はシンプルなのだ。

455.補腎薬について その2

腎を補うのは難しい。
だから、補腎薬の効果は、効果が出るまで時間がかかると言われる。
補腎薬の中で、比較的効果が速くでるのが、精力に関してだ。
だから、最初の補腎薬は、男性は精力剤、そして女性は美肌と考えられる。
精力増強といえば、マムシ、すっぽん、オットセイのペニスなどいわゆるゲテモノ系だ。
そして、あの附子も精力剤の一つだ。
女性の美容の代表は、燕の巣とか亀板だろう。
こういったものは、確かに効果はあると思う。
ただ、価格がとても高い。
そして、飲む人はただ単に精力剤、あるいは美容の薬として中医学的な考えもなく服用するから、体質にあわない事が沢山ある。

補腎薬のもう一つに、老化にかかわるものがある。
つまり老化防止としての補腎薬だ。
漢方には老化防止の作用があるものがある。
ただ、老化防止ついて言えば、補腎薬より、活血化瘀薬、化痰薬などむしろ汚れを綺麗にするものに顕著なように思う。


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