目次形式に切り替える333.五行説
五行学説は、中国古来の哲学思想です。これが、中医学と結びついています。
五行とは 木 火 土 金 水 です。
これを臓腑にあてはめて
「木」
肝臓 胆嚢 まっすぐにのびる性質 風で揺れる性質 酸っぱい味 怒りっぽい状態 気節は春 方角は東 体では、筋 目 爪 を意味しています。
「火」
心臓 小腸 熱い性質 苦い味 喜ぷ気持ち 気節は夏 方角は南 体の部分としては舌を意味しています
「土」
脾臟 胃(脾とは、漢方的には、消化吸収を司るもので、現代医学の脾臓とは意味が違いますから、注意してください。)
湿 甘い味 思う気持ち 筋肉(中医学的には肌肉といいます。) 季節は長夏(つゆの頃) 中央 を意味しています。
土は、他の四つが東西南北を意味しているのに対して、中央を意味しています。
この事から、脾胃は、体の中心と考えています。
胃腸の消化吸収機能が弱ってしまうと、病気は治りにくいわけです。
「金」
臓腑では、肺と大腸を意味しています。
肺とは、漢方的には、呼吸器としての肺だけでなく、鼻や皮膚も含まれます。
また、免疫機能の一部も肺の働きとされています。
それ以外には、 燥 辛い味 悲しい気持ち 皮毛 季節は秋 西 を意味しています。
「水」
臓腑では、腎と膀胱を意味しています。
腎とは、漢方的には、泌尿器としての腎だけでなく、ホルモンや生殖器も含まれます。
また、免疫機能の一部も腎の働きとされています。
それ以外には、 寒 塩辛い味 恐ろしい気持ち 骨 季節は冬 北 を意味しています。
332.五行説
相生とは、親子の関係です。
木は燃えると火になります。この事から、木は火を生みます。つまり、木は火の母です。
火が燃えると、炭や灰が出来ます。これは土です。
土の中から、金属が採れます。
金属は冷えると、まわりに水が付きます。
水は、木を育てます。
つまり、 木 火 土 金 水 の順に、生まれていきます。
左側が母で、右が子です。
相克とは、敵どうしの関係です。
ただ、完全に敵という訳ではなくて、制約する事によって全体のバランスを保つ意味があります。
木は、土の中の栄養分を吸収して、土を痩せさせます。
この事から、木は土を克するといいます。これを木克土といいます。
火は、金属を溶かします。これは、火克金です。
土は、水に勝ちます。水害などで堤防をきずいたり、土嚢などでみずが来ないように
したり、埋め立てのように、土で陸をつくります。これは、土克水です。
金は、金属の刃物で、木を切ります。金克木です。
水は火を消す事ができます。水克木です。
このように、お互いに制約する事によって、全体のバランスをとっています。
もし、木(肝胆)が強くなりすぎると、土(脾胃)を克して、胃腸が弱くなります。
331.気について
気とは、目に見えないエネルギーを指します。
これには、正気とか、邪気などいろいろな気があります。
また、自然界にあるもの、体内にあるものなど、さまざまです。
「六気」
六気とは、自然界にある、風 寒 暑 湿 燥 火 の事です。
六気は、季節に応じて、自然に存在します。
この場合は、病気の原因にはなりません。
しかし、季節に応じない気が発生したり、あるいは、季節に応じた気でも
強すぎたり、弱すぎると、病気の原因になります。
例えば、冬は、寒いのが当たり前です。
しかし、極端に寒すぎたり、あるいは、寒くなかったりすると、
病気の原因になるのです
「正気」
正気には、2つあります。
一つは「真気」とも言われ、人体機能の正しい現れで、病気に抵抗する力を意味しています。
正気が体の中に、充満していると、病気の原因である邪気は、体を犯す事が出来ません。
これには、先天の気 後天の気 臓腑の気 宗気 衛気 営気などがあります。
それぞれが、病気に抵抗して、体を守ってくれるだけでなく、生きていく爲に必要な生命活動をしています。
もう一つは、自然界の正気です。
これは、季節に応じた、正しい気です。
例えば、春は暖かく、夏は暑く、秋は涼しく、冬は寒い。
これは季節の自然の気です。
「先天の気」
先天の気は、腎と関係が深いので、腎気とも呼ばれています。
腎には、腎精といって、両親から受け継いだ、大切な命のもとが保存されています。
腎精は、いわば命のろうそくのようなものです。
腎気の強い人は、生命力が強く、長生きの素質があります。
腎気の弱い人は、腎気を消耗しないように心がけるとともに、腎精を補う食物や、漢方薬を服用する必要があります。
腎気を補うものは、紫河車、海馬、巴戟天、杜仲などがあります。
方剤としては、「海馬補腎丸」が有名です。
「後天の気」
後天の気は、胃腸から作られる気です。
これは、飮食物から作られます。
後天の気は、先天の気を補充しています。
また、後天の気は、血液や筋肉などを作る原料や、各臓腑にの気のもとにもなっています。
後天の気を補うには、補脾薬を使います。
人參、白朮、党参、黄耆などがあります。
代表方剤は、「香砂六君子湯」「四君子湯」「人参湯」などです。
「宗気」
宗気は、大気中の気を、肺から取り入れて、それを後天の気である脾気とブレンドしてできあがったものです。
主に、肺の呼吸する力と、心臓を動かす原動力になっています。
宗気が不足すると、動悸、息切れなどがおこります。
宗気を補強するには、人參、黄耆などの生薬がよく使われます。
代表方剤は、「昇陥湯」です。
「衛気」
衛気は、体を守る気です。
現代医学でいう免疫機能などを指します。
衛気は、腎臓で作られ、脾気と混ざり、さらに宗気の力の助けを借りていますから、先天の気、後天の気、宗気とも関係が深いのです。
衛気を強くする生薬は、黄耆、防風、桂枝などがあります。
代表方剤は、「玉屏風散」です。
330.邪気とは
邪気は、病気の原因になる、わるい気です。
これには、外からやってくるものと、体の内部に発生するものがあります。
外部からやってくる邪気は、風 寒 暑 湿 燥 火 の六気です。
体の内部に発生する邪気には、血液のよごれである淤血、水の汚れである湿と、固形物の汚れの痰、そして気の流れが悪い、気滞、食べ物が胃腸に詰まる食滞があります。
「気滞」
滞とは、簡単に言えば、気の流れが悪いという事です。
気の流れが悪くなると、その部分が詰まって、張る感じや、痛みなどを起こします。
気滞がひどくなると、化火といって、赤みを伴って炎症を起こしたりします。
また、気滞が長引くと、水や血液、栄養物の流れも悪くなり、いろいろな障害を
引き起こします。
気滞を治療するには、理気薬を使います。
柴胡、枳実、香附子、木香、紫蘇 などにその作用があります。
処方としては、「加味逍遥散」「開気九」が有名です。
「瘀血」
瘀血は、血液の流れが悪くなり、滞った汚れた血です。
血液の流れが悪い事を血淤と言います。
淤血は、出血の原因になったり、血管に詰まったり、また血流を悪くして、肩こりや頭痛の原因にもなります。
最近の研究では、慢性病の多くが淤血と関係していると言われています。
瘀血の治療には、昔から、活血化淤という方法が用いられています。
川きゅう、赤芍、牡丹皮、丹参、紅花 などにその作用があります。
それらを組み合わせた「冠元顆粒」は、とても有名な処方です。
「桂枝茯苓丸」は婦人科の淤血によく用いられます。
「湿」
湿は、体の中の不必要な、余分な水です。
むくみの原因になります。
また、鼻からあふれ出すと鼻水、気管支から出ると痰、目から出ると涙となります。
湿をとるには、茯苓、猪苓、白朮などの利水剤をよく使います。
代表方剤は、「五苓散」です
「痰」
痰は、普通に気管支から出る痰だけではありません。
体の中のよごれで、比較的、粘るものを言います。
例えば、余分な脂も痰になります。
痰は、体のあちらこちらに溜まって、しこりを作る事があります。
また、淤血と一緒になって、脳などに詰まって、脳梗塞を起こす事もあります。
痰の治療には、半夏 貝母 夏枯草 天南星 胆南星 竹茹 竹瀝などを用います。
代表方剤は、「温胆湯」「二陳湯」などです。
「食滞」
食滞は、胃腸につまった、不消化の飲食物です。
食滞になると、おなかが張る、口がまずい、便がすっきりしない、げっぷ、吐き気、舌の苔が厚くなるなどの症状がおこります。
食滞をとるには、山ざ子、神麹、麦芽、鶏内金などを使います。
329.血の概念
血の概念は、漢方も、現代医学もあまり変わりません。
これは、血液が目に見えるために、その働きが理解されやすかったものと
思います。
血の病気には、血虚と血淤があります。
血淤については、邪気の項目で説明しました。
血虚とは、血液の不足です。
現代医学の貧血も血虚の一種です。
貧血は、血液の濃さの不足です。
血虚には、これ以外に、血液の絶対量の不足があります。
これを全身的な血虚といいます。
全身的な血虚に対しては、当帰、地黄などの補血薬を使います。
具体的な方剤は、四物湯です。
また、局所的な血虚もあります。
局所的な血虚は、血虚を起こしているそれぞれの場所特有の症状がおこります。
詳しくは、各臓腑の項目を参照してください。
328.津液とは
津液という概念は、現代医学には無いので、わかりにくいかも知れません。
簡単に言えば、栄養分を含んだ、きれいな水です。
津液は、血液とともに、体を潤し、臓腑に栄養を与える爲には、なくてはならない物です。
津液は、サラサラしたものを津、どろどろしたものを液と言う事もあります。
津液が不足すると、のどか乾く、皮膚が乾く、目が乾く、など体の潤いがなくなるばかりではなく、イライラしたり、のぼせたり、不眠になったりする事もあります。
津液を補う生薬には、麦門冬、天門冬、玉竹、百合などがあります。
代表的な方剤は、麦味参顆粒です。
327.臓腑とは
漢方の臓腑は、現代医学の臓腑とはちょっと違います。
臟は、主に、肝 心 脾 肺 腎を表します。
臟は、藏から来ています。
つまり、大切な物を蓄える働きがあるのです。
腑は、 胆 小腸 胃 大腸 膀胱があります。
腑は臟とは逆で、中身が空のものです。
これ以外には、心包、三焦 女子胞があります。
326.肝について
中医学でいう肝は、現代医学の肝臓とは大分違います。
肝は、肝臓の機能だけでなく、自律神経の機能も包括しています。
肝は、筋(すじ 腱 神経繊維) と関係があります。
また、目の働きも肝と深いつながりがあります。
肝は血液を蓄えていて、必要に応じて、全身に供給しています。
また、自律神経の働きも肝に屬します。
肝に問題があると、イライラしやすいなどの症状が出てきます。
肝の病理は、肝郁気滞 と 肝血不足 肝陽虚 肝陰虚 などがあります
「肝気虚」
肝気は、肝臓がもっているエネルギーです。
肝は疏泄をつかさどっています。
肝の疏泄とは、
情緒を安定させる働き
胃腸の働きを助ける
全身の気の流れを調節して、気機を助ける働き
気機とは、気が上ったり降りたり、浮いたり沈んだりする気の動きを意味します。
肝の持つエネルギーが不足すると、無気力、食欲がない、だるい などの症状がおこります
「肝血不足」
肝には、血を臓する働きがあります。
肝臓には血が沢山あるのです。
昼間は体の中をめぐっている血も、夜になると、肝臓の中に戻ってきます。
肝血が不足すると、貧血のような症状がおこります。
顏色が悪い、疲れやすい、舌の色が淡白などです。
また、肝気とのバランスが悪くなり、気血両虚や肝気鬱結を起こします。
肝は目とも関係が深いので、肝血虚になると、目が疲れたり、見えにくくなります。
このような時は、当帰 芍藥 枸杞子 などを用います。
肝は、女性の生理の周期を調整する働きもあります。
肝血虚になると、生理不順になる事があります。
このような場合は、当帰の沢山入った婦宝当帰膠などを用いると良いでしょう。
「肝陽虚」
肝陽虚は、中国の漢方の教科書にもあまり載っていません。
なぜなら、どちらかというと、肝は陰が不足して、陽が多い事が多く、肝の陽氣の
不足という状態はあまりおこらないからです。
しかし、数は少ないですが、肝陽虚も存在します。
肝陽虚になると、肝気虚の症状の他に、冷えが起こります。
疲れやすい、ため息をよくつく、やるきがしない、クーラーが苦手、手足が冷える
などです。
肝陽虚の人は、当帰、桂枝、呉茱萸などを多く用います
「肝陰虚」
肝の陰は、腎の陰とともに、体の中ではとても大切な役割をしています。
肝の性質は、剛です。
もともと陽気が強い臓器です。
このため、肝の陰は不足しがちです。
肝は、木に例えられます。
ですから、肝の陰が不足すると、木は、みずみずしさを失って、枯れ木のようになってしまいます。
肝の陰が不足すると、肝から火を生じます。
肝陰虚の特徴は、目の疲れ、目の乾き、イライラ、口のかわき、手足の火照り、不眠、
ストレスなどです。
代表的な方剤は、杞菊地黄丸
「肝鬱気滞」
の気は、体の中ではとても重要な働きをしています。
その主な作用は、疏泄作用といいます。
肝の疏泄とは、
情緒を安定させる働き
胃腸の働きを助ける
全身の気の流れを調節して、気機を助ける働き
気機とは、気が上ったり降りたり、浮いたり沈んだりする気の動きを意味します。
この肝気の流れがスムーズに行かない事を肝鬱気滞といいます。
肝鬱気滞は、肝気欝結とも言います。
肝鬱気滞の主な症状は、
イライラする
つまる感じ
張る感じ
気力が無くなる
などがあります。
肝の疏泄を良くする漢方薬としては、柴胡があげられます。
代表的な方剤は、加味逍遥散です。
「肝火上炎」
肝鬱気滞が長く続いたり、日頃から体質的に熱を持ちやすい体質の場合は、
肝火上炎という病態がおこります。
肝火上炎は、肝鬱気滞の症状の他に、のぼせが加わります。
具体的には、
顔が赤い
血圧があがる
不眠
鼻血
顔があつい
などです。
肝火上炎には、竜胆、夏枯草、黄岑、大黄などが用いられます。
「肝陽上亢」
肝火上炎や、肝陽上亢が長く続くと、肝風内動という病態を引き起こします。
肝風内動は、振るえやしびれを主な症状としています。
昔から、中風の前触れと言われ、肝風内動が現れた時には要注意です。
具体的な症状としては、
めまい
ふるえ
しびれ
舌がもつれる
言葉がうまくしゃべれない
まっすぐ歩けない
などです。
よく使われる生薬は、羚羊角、石決明、釣藤、地竜、全蝎などがあります。
「肝風内動」
肝火上炎や、肝陽上亢が長く続くと、肝風内動という病態を引き起こします。
肝風内動は、振るえやしびれを主な症状としています。
昔から、中風の前触れと言われ、肝風内動が現れた時には要注意です。
具体的な症状としては、
めまい
ふるえ
しびれ
舌がもつれる
言葉がうまくしゃべれない
まっすぐ歩けない
などです。
よく使われる生薬は、羚羊角、石決明、釣藤、地竜、全蝎などがあります。
「肝経湿熱」
肝の経絡は、足から陰部をめぐって、脇腹を通っています。
肝経の湿熱は、この部位に湿疹や炎症を起こす事が多いようです。
また肝は目とも関係が深いので、目にも異常が出ます。
肝経湿熱の具体的な症状は、
足の内側の痛み腫れ、陰部の痒み、痛み、腫れ、だだれ、
脇腹のいたみ、腫れ、目やに、目のただれ、排尿痛、排尿困難などです。
よく使われる薬としては、竜胆瀉肝湯、茵陳蒿湯があります。
325.胆について
胆は、決断を司っています。
また、肝から胆汁を受けて、胃に注いでいます。
胆は、いわゆる「きもったま」です。
胆が丈夫だと、大胆です。
胆が弱いと、いつもびくびくして、おびえ、不安が一杯です。
胆の病理としては、胆の気が不足した胆気虚と、胆に湿熱がたまった
胆湿熱、そして、肝胆湿熱があります。
「胆気虚」
胆は、決断を司っています。
ですから、胆の気が虚すると、優柔不断になり、いつもびくびくしています。
驚きやすくなり、不安感や不眠が出る事が多いようです。
胆の気を補う時は、単純に補気するだけではだめです。
胆の気の流れを調節して、肝から受ける気の流れを良くする必要が
あります。
胆は、経絡的は少陽経で、三焦も少陽経に属しています。
三焦は気血水の流れる道です。
このため、胆は肝の気を受けて、気血水の流れを調整していると言えます。
胆気虚には、通常の補気薬だけでなく、温胆湯を併用して、
胆の気の流れを良くする必要があります。
「胆湿熱」
胆は、肝からの気を受け、胆汁をためています。
胆汁は消化に必要なものですが、時として多すぎて胃から食道に逆流する事もあります。
このような病理状態を胆湿熱といいます。
多くは肝の湿熱を伴っているので、肝胆湿熱となります。
胆の湿熱は、胆汁が食堂や口にあふれ、口が苦い、吐き気、胸焼けなどの
症状を起こす場合と、皮膚にあふれて黄疸を起こす場合があります。
痰湿熱によく使われる処方は、黄連温胆湯、黄連解毒湯、茵陳蒿湯などです。
「肝胆湿熱」
肝経の湿熱と、胆の湿熱が同時に見られる病態です。
肝と胆は表と裏ですから、肝の湿熱は胆の湿熱を伴う事が多く、
また胆の湿熱も肝の湿熱を伴う事が多いのです。
肝胆湿熱の症状は、肝の湿熱である イライラ、起こりやすい、不眠
のぼせ、肝経にそった痒み、陰部の痒み、湿疹、目の痒み、ただれ、赤目と
ともに、胆経の湿熱である口が苦い、吐き気、胸焼け、黄疸などが現れます。
薬は、肝経湿熱と胆湿熱のどちらが重いかを考えて、それぞれの薬を併用して
324.心について
心は、中医学的には心臓だけでなく脳の働きも心に属させています。
心の働きの主なものは、血液を全身に送りだす働きです。
血液を送り出す力は、心気の力によります。
心気は、宗気と関係しています。
宗気は、主に空気中のエネルギーを得て胸中で作られる気です。
宗気は、心臓を動かす働きと、肺を動かして呼吸をする力の源です。
宗気が不足すると、心臓のポンプの力が弱くなり、呼吸の力が弱くなります。
そのため、動悸、息切れなどが起こります。
心を動かすエネルギーの心気の元になっているのが、心血です。
心血は心に血液を送り、心臓を養っています。
さらに心は腎と肝との関係が深いのです。
心は化火しやすく、この心の火を押さえているのが、腎の水です。
腎水が不足して、心火が亢進する状態を心腎不交といいます。
肝は、自律神経を意味しています。
心は、脳神経ですから、心と肝は非常に密接に関係しています。
「心気虚」
心の気の働きが衰えた状態を心気虚といいます。
心気虚は、心気不足とも言います。
心気虚を起こす原因としては、情志の失調や、先天的に心が弱い、久病、老化などが
考えられます。
心臓のポンプの力が衰えて、動悸、息切れなどがおこります。
また、心は脳の機能も包括していますから、精神衰弱なども心気虚に属します。
主な漢方薬としては、心のポンプの力が低下して場合は、麦味参を用います。
精神が衰弱した場合は、帰脾湯などが用いられます
「心陽虚」
心には、心火といって、体を温めている大切な火があります。
これを君火と言います。
君火は、腎にある相火とともに、体の体温を維持したり、血流を保ったりしています。
君火が衰えている状態を心陽虚といいます。
心陽虚は、心気虚を伴う事が多く、心気虚の症状が見られます。
さらに、君火の力が弱いので、手足の冷え、背中の冷え、時には全身的な冷えが
現れます。
また、冷えると血流が悪くなり、痛みを起こす事もあります。
さらには、水の流れも悪くなり、むくみを起こします。
心陽虚には、乾姜、附子、桂枝など、暖める生薬をよく用います。
「心血虚」
心を養う血液が不足しておこる病態を心血虚といいます。
心血虚は、心血不足とも言います。
心は、心臓のポンプの問題と、神といって、大脳の問題があります。
心血が不足すると、心臓のポンプに問題がおこって、動悸や息切れがおこります。
また、時には胸苦しい感じがする事もあります。
大脳に問題が出ると、不眠、健忘などがおこります。
心血を補う漢方薬としては、当帰、竜眼肉、柏子仁などがあります。
方剤としては帰脾湯が有名です
「心陰虚」
心を養う陰液が不足しておこる病態を心陰虚といいます。
心陰虚は、心陰不足とも言います。
陰液とは、簡単に言えば栄養液のようなものです。
心は、陰液という栄養液で養われています。
この液が不足すると、心の機能に問題が出てきます。
一つは、心臓のポンプの問題です。
主な症状は、動悸、息切れ、胸のつかえなどです。
もう一つは、大脳の問題です。
心は、神を司っています。
神は、意識です。
これは、現代医学的に言えば大脳の問題です。
心陰虚になると、脳を養う栄養が不足します。
このときには、脳の働きが低下して、痴呆症、記憶力や集中力の低下などがおこります。
心の陰液は、心火を押さえる働きがあります。
このため、心の陰液が不足すると、心火が亢進して、不眠、イライラなどが
現れる事があります。
心の陰を補う代表的な方剤は、天王補心丹です。
「心血淤阻」
心血淤阻は、血脉淤阻ともいいます。
血液がよごれを淤血といいます。
淤血によって血液の流れが悪くなった状態を血淤と言います。
血淤は体の至る所に現れる可能性がありますが、特に心臓によく現れます。
現代医学でいう狭心症などは心血淤阻と考えても良いでしょう。
心血淤阻の症状は、針で刺すような胸の痛みです。
これがひどくなると、絞られるような痛みになります。
心血淤阻の代表方剤は、冠元顆粒、血腑逐於湯などです
「痰濁淤阻心脈」
痰濁とは、簡単に言えば余分な脂の事です。
中性脂肪やコレステロールなどです。
こういった汚れが、心臓の血管につまった状態を痰濁淤阻心脈と言います。
痰濁は、淤血と結び付きやすく、淤血と痰濁の両方が心脈につまったものを
痰淤互阻心脈と言います。
症状は、心胸部の息苦しさ、痛み、動悸、息切れ、時に痛みの発作などです。
苔は、厚く、膩苔です。
やや化熱すると、黄膩苔になります。
脈は、滑脈ですが、痛みが強いと弦脈、症状が重いと、時に沈細になります。
治療方法は、化痰して心脈を通じる方法になります。
半夏、瓜呂仁、枳実、薤白などを用います。
また、痰淤互阻心脈の時は、川きゅう、丹参、赤芍など活血化淤薬と同時に用います。
「大気下陥」
胸中にある、呼吸と心臓の鼓動の原動力は、宗気と言われています。
この宗気は、大気とも言います。
食事の中の気と、鼻から呼吸した空気中の気が合わさってできたものです。
この気が不足すると、動悸、息切れが起こります。
大気は、胸中にあるのが正常です。
しかし、この気が不足した時に、胸中から、下に落ちてしまう事があります。
このような病理状態を大気下陥と言います。
主な症状は、呼吸困難です。
特に、大気下陥の場合は、息を吐くのが辛い状態です。
脈は尺脉が弱くなります。
主な処方は、昇陥湯です。昇陥湯が無い場合は、補中益氣湯で代用します。
「痰迷心竅」
痰濁という毒素は、脂と水が混ざったようなものです。
この痰濁が心に入り込み、心竅を塞いだものを痰迷心竅といいます。
心には、血液を送り出す心臓としての役割と、大脳の役割があります。
後者を特に「神」といっています。
「神」の働く場所を特に「心竅」といっています。
「竅」は、あなという意味です。
心の窓というように、「神」と外界は「竅」というあなでつながっていると考えています。
ここに、痰濁という毒素が入り込んで、この大切なあなをふさいでしまった状態が痰迷心竅です。
痰迷心竅の特徴は、意識障害です。
その他に、のどに痰がつまった感じがして、舌は白膩、脈は弦滑になります。
痴呆、ひとりごと、泣いたり笑ったりする、などの症状があらわれます。
治療は、半夏、胆南星などを用います。
「痰火擾心」
痰濁という毒素は、脂と水が混ざったようなものです
痰は湿よりも粘っこいものです。
病理的には、湿が熱せられて、煮詰まって粘っこくなると考えられます。
このため、痰は火と結びつく事が多くなっています。
痰が、心竅という部分に入り込んだものを痰迷心竅といいますが、
痰迷心竅の症状と一緒に、火が心を脅かす状態があるものを痰火擾心と
いいます。
痰火擾心の主な症状は意識障害です。
精神病の一部分に見られます。
例えば精神分裂病などです。
精神が錯乱して、暴れ出すなどの症状です。
また、熱病などの場合にも現れる事があります。
治療は、胆南星、牛黄、黄連、瓜楼仁、蒙石、大黄などを用います。
「心神不寧」
心神不寧(しんしんふねい)は、心が安まらない状態をさしています。
これは、一つの状態を指すもので、正確には弁証とは違います。
弁証は、病気をおこしている原因を分析していくものです。
心神不寧は、病気の原因というよりは、病気の結果、つまり症状を意味しています。
心神不寧を起こす原因としいは、心気が著しく消耗した心気虚と、心血が不足して
心気を養えなくなった場合によく起こります。
また、肝火や胆火が原因で、心火に影響を与えて起こる事もあります。
心神不寧の治則は養心安心です。
心気虚に傾く場合は、帰脾湯を用います。
心血虚に傾く場合は、柏子養心丸を用います。
「心腎不交」
心と腎は、密接な関係があります。
腎の中には火と水があります。
この火は、心の火を補っています。
また、腎の水は、心の火が燃えすぎないように抑制しています。
もし、腎の働きが悪くなり、腎の水が心火を押さえられなくなった場合、心腎不交が
おこります。
症状としては、不眠、耳鳴り、イライラ、口渇などです。
よく使われる処方は、黄連阿膠湯と天王補心丹です。
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