目次形式に切り替える323.小腸について
小腸は、現代医学の小腸とほぼ同じと考えて良いでしょう。
食べたものは、胃で初期の消化を受けます。
その後、小腸に運ばれていきます。
小腸では、食べたものから栄養と水分を吸収して、脾に運びます。
このため、小腸に異常があると、食べたもの吸収が悪くなったり、下痢をしたりします。
小腸は心と密接な関係があります。
心の熱が小腸に移る事がよくあります。
口内炎、下痢、尿の異常などが現れます。
小腸の病変としては、小腸虚寒証、小腸湿熱、小腸気滞、心熱移小腸などがあります。
322.胃について
中医学では、胃腸の消化機能の多くは「脾」の働きと考えています。
胃は、食べたものを一時的に蓄えておく器のような働きをしています。
そして、少しずつ腸の方に、食べたものを送り出しています。
つまり、「食べたものをおさめる働き」と「蓄えたものを小腸に送りだす働き」が、胃の主な働きといえます。
胃の気は、下に降りていくのが正しい働きです。
これがうまく行かず、食べたものが食道に逆流した場合、胃気の上逆といいます。
また、げっぷ、胸焼け、しゃっくりなども胃気に問題があると考えています。
胃気不和
胃気は、消化を助ける気です。
正常な状態では、胃気は下に降りる働きがあります。
つまり、食べたのもを食道から胃へ、胃から腸へと運んでいきます。
この働きがうまく行かない事を胃気不和といいます。
現代医学的に言えば、胃や腸の蠕動運動がうまく行かない状態です。
特に、蠕動が強すぎて、食べたものが逆流する事があります。
このような時は、お腹が張り痛む、胃が張る、胸焼け、胃液が逆流する、
吐き気、げっぷなどの症状がおこります。
胃気の働きは、肝とも関係が深いのです。
肝気の働きが悪くなると、胃気の働きも悪くなり、肝胃不和を起こします。
胃気不和の場合は、平胃散などを用います。
肝胃不和の場合は、開気丸を用います。
肝胃不和
肝と胃は、相剋関係にあります。
つまり、肝気が強くなると、胃気は制約を受けすぎて、働きが低下してしまいます。
肝は、ストレスや自律神経と関係が深いですから、ストレスなどで自律神経が不安定になると、胃の消化機能が低下します。
このような時によく見られる症状は、胃のもたれ、胸焼けなどです。
肝胃不和の場合は、ストレスの影響を強く受けるので、胃の状態はストレスによって変わります。
つまり、調子の良い時と、悪いときの差がかなりあります。
よく使われる漢方薬は、「開気丸」です
胃気上逆
胃の気は、下に降りていくのが正しいと言えます。
つまり、食べたものを腸の方に運んでいく働きがあります。
この働きがスムーズにいかなくなった状態を胃気上逆と言います。
具体的な症状としては、胃のつかえ、もたれ、げっぷ、吐き気、胸焼けなどです。
胃気上逆の治療法則は、和胃降逆です。
代表的な方剤は旋覆花代赭石湯ですが、これは日本ではあまり使われないので、
代用処方として、半夏瀉心湯が用いられています
321.肺について
中医学的に見ると、肺の機能はさまざまです。
呼吸を主るだけでなく、皮膚も肺の機能に屬します。
また、免疫機能や、気、水の流れを調節しています。
胃から吸収された食物の栄養は脾に運ばれてから、さらに肺に運ばれます。
ここで、空気中から得られた気と混ぜあわせ、宗気という気をつくります。
宗気は心臓の鼓動や肺の呼吸のエネルギー源となっています。
また、肺の気は、全身に流れると共に、一部は下に降りて腎に運ばれます。
このように、肺の働きは複雑ですが、「気」と関係が深い臓器と言えます。
肺は嬌臟である
肺は、とてもデリケートな臓器です。これは直接外気にさらされている事が原因です。
肺は、華蓋
肺は、各臓器の一番上にあります。臓器の蓋の役目です。
肺は宣発と粛降を主る
宣発は、気を全身に流す働き。粛降は、肺気を腎に運ぶ働きです。
肺は百脈を朝ずる
肺は気の流れを主っています。血は気によって流されていますが、肺気の流れは血液の流れとも直接関係をもっています。
肺気虚
肺の気の働きが弱った状態を肺気虚といいます。
肺の気は、
外気を呼吸する働き
皮膚呼吸
汗の調節
免疫の調節
血流の調節
エネルギーを腎に送る
宗気の生成
などにかかわってきます。
肺気が弱ると
呼吸に力がなくなる
少し動くと息切れがする
風邪をひきやすい
血流が悪くなり、チアノーゼなどがおきる
汗がだらだらと、止まらなくなる
喘息
などの状態がおこります。
肺気を強める生薬としては、黄耆 冬虫夏草などがあります。
方剤としては、参鹿丸 や 玉屏風散などがあります。
肺陽虚
肺気虚の状態に加えて、肺の陽気が不足した状態を肺陽虚といいます。
陽気は体を温める働きがあります。
この陽気は、陰とバランスを保っています。
余分な水は、湿と言われ、陰に属します。
肺の陽気が不足してくると、これにつけ込んで、陰邪である湿が進入してきます。
ゼーゼーと呼吸困難が起こり、それと共に、薄い水のような痰がわき上がって
くる状態です。
このような場合、乾姜、附子、細辛、黄耆などを使います。
肺陰虚
陰とは、栄養液のようなものです。
肺の陰は、肺を潤す作用と、肺の熱をさますという二つの働きを持っています。
肺の陰が不足すると、肺に関係する部位が乾燥してきます。
肺に関係する部位とは、具体的に言えば皮膚、鼻、気管支、肺です。
この部分に潤いがなくなり、かさかさしたり、つっぱったりします。
また、陰の熱をさます機能が低下すると、肺に熱がこもり、粘っこい痰がからんだり、
咳が長引いたり、皮膚に赤みを帯びたりします。
このような場合は、肺の陰を補う事が大切です。
よく使われる方剤は、百合固金湯、麦門冬湯などです。
熱が強い場合は、養陰清肺を使います。
痰湿阻肺
痰湿とは、余分な脂や繊維、水などです。
こういった邪が肺にたまって、肺の気の流れを阻害しているのが痰湿阻肺です。
痰が多く出るのが特徴で、呼吸が困難になったり、ゼーゼーひゅーひゅー言います。
この場合、咳を止めるよりは、痰を排出してやる事が大切です。
よく使う生薬に、貝母、半夏、瓜楼仁などがあります。
痰湿阻肺で、冷えが強い時は小青竜湯をよく使います。
熱が強い場合は、柴陥湯などを使います。
風寒束肺
身体の外からやってくる病気の原因を外邪と言っています。
外邪は、空気に含まれているものと、食物に含まれているものがあります。
このうち、空気に含まれているものは、鼻から気管支を通って肺に入ります。
この爲、肺は常に外邪の攻撃にさらされています。
この外邪の中で一番強力なのは寒という邪気です。
寒は、風という邪気と協力して肺の中に入り込みます。
この状態を風寒束肺と言います。
風寒束肺の症状は、咳、悪寒、くしゃみ、鼻水などです。
よく使われる漢方薬は、麻黄湯です。
320.大腸について
漢方的な大腸は、現代医学の大腸と、意味はよく似ています。
大腸の働きと病気は、一部のものを除いて現代医学と同じと考えても良いでしょう。
中医学では、大腸に熱がこもった状態になると、便秘だけでなく、意識障害が
起こると考えています。
特に、熱病などで、邪熱が大腸に入り込んだ状態になると、意識障害がおこります。
この時によく用いられる処方が大承気湯です。
一部の脳血管障害の急性期に、意識障害とともに、便秘を伴う事があります。
この場合、下剤や浣腸などで大便を出してあげると意識障害が軽くなる事があります。
この場合も、大腸に熱がこもって、意識障害を起こしていると考えられます。
また、大腸に湿熱がたまって、血便が出るときは、白頭翁湯を使います。
逆に冷えて血便が出る時は、桃花湯を用います。
319.腎について
腎は、漢方ではもっとも大切な臓器とされています。
漢方でいう腎は、現代医学の腎臟だけではありません。
ホルモンや、エネルギーの生成、骨や発育なども腎と関係があります。
腎にはいろいろな働きがあります。
特に、生殖の力を腎気といいます。
さらに、先天の気というものを人間は産まれた時に両親から受け継いでいます。
この先天の気は腎精とも言われ、腎の中に蓄えられていまする
腎精は、とても大切なものです。
老化や寿命などは腎精と大きくかかわっています。
生殖の能力も腎と関係があります。
ですから婦人科系統の病気の多くが腎と関係があります。
また、副腎なども腎に属していますから、その他のホルモンも関係しています。
腎陽虚
腎陽は、身体の中の陽気の中心となっています。
簡単に言えば、腎陽は、身体の中のボイラーの役目をもっています。
身体全体を暖めたり、特に胃腸を暖めいてます。
腎の陽気が不足すると、身体全体が冷えてきます。
また、胃腸の働きが悪くなり、下痢をしたりします。
さらに、陽は水の流れを調節しています。
陽気が不足すると、水の流れを調節出来なくなります。
このために、水が体中にあふれ出して、浮腫や喘息などの原因になります。
また、腎はホルモンや生殖器と関係が深いので、腎陽虚は生理不順や不妊症の
原因にもなります。
腎の陽を補う時は、附子や桂皮などを用いて、素早く腎陽を助ける場合と、
鹿茸、杜仲、巴戟天などで、ゆっくりと腎陽を補っていく場合があります。
代表的な漢方薬は、右帰丸、海馬補腎丸、至宝三鞭丸があります。
腎陰虚
腎の中には、陰と陽があります。
腎の陽が、身体の陽中心であるように、腎の陰もまた身体の陰の中心と言えます。
腎は水と関係の深い臓器です。
つまり、腎陰は身体の中の水分の供給に関係しています。
このため、腎陰が不足すると、身体の中の水分が不足した状態になってきます。
皮膚がカサカサする肺陰虚
イライラしてのぼせる肝陰虚
やせて、疲れる脾の陰虚
動悸がして不眠などの心陰虚
これらの陰虚のすべては、腎陰虚と関係しています。
腎陰虚が原因で他の臓器に影響を与える事もあります。
他の臓腑の陰虚は、時間がたつと、必ず腎の陰虚を引き起こします。
何故なら、腎の陰は、他の臓器に陰を与える、ちょうど銀行のような役目をしているからです。
腎陰虚に用いるもっとも有名な漢方薬は六味丸です。
腎精不足
腎精は、両親からうけついだ先天の気を基に、脾胃から受け取る後天の気により
絶えず補充され、腎の中に蓄えられた人間の生きる爲の根本物質です。
この腎の精が不足すると、知能の低下、運動能力の低下、免疫機能の低下、
発育の低下などが起こります。
両親から受け継いだ先天の精は、薬では補う事はできません。
このために、腎精を補う爲には、後天の気である脾からの気を補っていく必要があります。
腎精を補うものとしては、紫河車、鹿茸、人参などが考えられます
腎血淤
腎血淤は、腎に淤血を生じた状態です。
通常は、腎の淤血は、あまり問題にしません。
しかし、実際の臨床では、腎血淤はよく見かける状態です。
腎には、実証はないという人がいます。
それは、腎は、精を臓する大切な臓器で、陰と陽の根元でもあるからです。
この大切な腎は、消耗こそすれ、邪がたまる事は無いという考えです。
しかし、そもそも臟というのは、ものを溜め込む性質のものです。
ですから、邪を溜め込む事もあります。
その溜め込む邪が何であるかによって、腎の湿熱や腎の血淤というものが考えられます。
腎の血淤の症状は、腰の部分の刺すような痛み、血尿などです。
よく使われる生薬は牡丹皮、生地黄などです。
318.膀胱について
膀胱は、腎と表裏をなしていて、尿をためる大切な所です。
身体の中の津液の生成に関与しています。
膀胱が尿や津液を作る働きを気化機能といいます。
この気化機能の働きが悪くなると、尿の生成がうまく行かなくなり、
尿の量がすくない、浮腫、口渇などがでてきます。
膀胱は、太陽膀胱経にぞくしています。
太陽膀胱経は、足の裏側から背中、首を流れるもっとも大きな経絡論です。
風寒などの外邪は、まずこの太陽膀胱経から体内に進入します。
ですから、身体に風寒の外邪を受けると、膀胱経に反応が出てきます。
また、太陽膀胱経には、兪穴といって、内臓の状態に反応する大切な経穴があります
膀胱湿熱
膀胱に湿熱がたまった状態を膀胱湿熱と言います。
湿熱とは、邪気の一種で、湿という邪と、熱が結びついたものです。
湿とは、簡単に言えば、余分な水分です。
これに熱が結びつくと湿熱になります。
膀胱湿熱の主な症状は、尿の出がわるく、渋る、排尿痛、排尿時の出血などです。
現代医学でいう、膀胱炎や、尿道炎などでこの症状がよく見られます。
膀胱の湿熱の治療には、滑石、猪苓、木通などをつかいます。
主な処方は、八正散です。
317.望診
望診とは、病人の身体を見て診断する方法です。
望診の中でもっとも重要なのは、舌診です。
舌診については、このホームページでも詳しく解説していますから、ここでは説明しません。
舌診以外で重要なのは、顔色の診断です。
顔色全体が赤黒い時は湿熱や淤血。
青白い場合は、肝寒。
黄色い場合は脾に問題がある。
鼻が赤い時は、肺または脾に熱がある。
黒い場合は、腎に問題がある。
などなどです。
子供の場合は、指の色で診断する方法もあります。
また、病人の雰囲気を掴む事も大切です。
目がしっかりしている人は、病気が重くてもなおりやすいものです。
これに反して、目の焦点があっていないような場合は、状態が悪い事を意味しています
316.聞診
聞診は、音を聞くだけでなく、臭いをかぐ事も含まれます。
実症と言われて、毒素が多い状態の時は、独特の体臭、口臭、便の臭いなどが
あります。
とくに湿熱という毒素が多い時には臭いが強くなります。
患者さんの、声の力も大切です。
しゃべり声に力がある時は、肺気は充実しています。
力がない時は、肺気が衰弱しています。
肝に問題があると、しゃべり方がカリカリとして、速く、甲高い声になります。
心に問題があると、ため息をよくもらします。
肺に問題があると、呼吸がゼーゼー言います。
大便や尿や生理の臭いも診断の参考になりますが、これは直接かぐ事は出来ないので、患者さんからの話を参考にします。
315.切診
切診とは、身体に触って診断する方法です。
具体的には、脈を診る切診と、お腹を見る腹診、それから経絡や経穴の状態を
見る方法などがあります。
切診の中では脈診が一番大切です。
脈は、浮脈といって、体表に浮いた脈。
これは、邪が体表にある事を意味しています。
沈脈といって、脈が中に沈んだ状態。
これは、邪が体内にもぐっている状態です。
形状としては、突っ張ったような弦脈。
ストレスの多い時に見られます。
緊脈
弦脈よりももっと突っ張っています。
寒邪に犯された時などに見られます。
澀脈
血液の流れが円滑でない状態です。
淤血などの時によく見られます。
滑脈
コロコロと円滑な脈です。
妊娠時とか、生理前などに見られます。
また、痰湿が多い時にも見られます。
脈の部位としては、
寸 関 尺 に分けて考えます。
寸脈は、体表、上半身を意味しています。
また、左の寸は心を右の寸は肺を意味します。
関の部分は、お腹のあたりを意味していて、左の関は肝を右の関は脾を意味しています。
尺は、身体の下半身を意味していて、左右とも腎を意味します。
お腹をさわってみる腹診は、主に日本で発達しました。
みぞおちが硬い心下痞硬は、瀉心湯を使う目標になります。
脇の下が硬い胸脇苦満は柴胡剤を使う目標になります。
臍の下が柔らかい、感覚が弱いなどは、臍下不仁といって、八味丸の目標です。
314.問診
問診とは、患者さんにいろいろと質問をして、病気や体質の状態を判断する事です。
基本的には、現代医学の問診とあまり変わりはありません。
一番違う点は、漢方の診断は、病気を起こしている場所だけでなく、
全身的な事も考慮します。
ですから、病気とは一見まるで関係ないような質問をされる事もあります。
例えば、熱と寒を決めるのに大切なのが、尿の色です。
あるいは、生理の色なども重要です。
また、住んでいる環境や、仕事、普段の食べ物なども判断材料になります。
漢方相談に行かれて、「変わった質問だな。病気に関係があるのかな。」と思われる事もあるかも知れません。
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