深谷薬局 養心堂

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443.病気の原因と中医学の対応

起こり得る病気の原因と中医学的な対応を考えてみました。
今考えたのは14種類ですが、もっとあるかも知れません。

1.怪我や火傷などの外傷
中国の歴史は戦いの歴史でもあり、兵士の怪我の治療には漢方薬が用いられてきました。
このため、怪我の治療には多くの優れた処方が残されています。

2.細菌やウイルス、寄生虫などの侵入
中医学が生まれた時代には細菌やウイルスの存在は知られていませんでした。
最初は気候の変動などが原因とされてましたが、のちに伝染病が知られ、その原因として汚れた空気が考えられました。
また細菌やウイルスの存在はわからなくても、傷寒論や温病論など治療のために沢山の処方が考えられました。葛根湯や銀翹散など今でもよく使われています。

3.腫瘍など、おそらく遺伝的の損傷や不要なエピゲノムの不良による不要な遺伝子発現
中医学ではガンの知識や治療はあまりありません。原因としては昔の人は寿命が短く、いわゆるガン年齢になる前に亡くなっていたからではと思います。

4.遺伝病 必要な遺伝子の欠損
この分野は中医学では難しいでしょう。西洋医学では将来的には遺伝子の移植などが出来るようになるかもしれません。

5.免疫疾患
これはアレルギーなど外部からの抗原によるものと、自分の体に反応してしまう自己免疫疾患があります。
中医学ではこの2つはあまり区別しません。
そのため、西洋医学では難しい自己免疫疾患の治療について、中医学は一定の効果があると思われます。
抗体にかかわる病気は以前、「宿邪論」で述べた事があります。

6.ホルモンバランスの異常
性ホルモンの作用は腎気と考えています。
インスリンは脾気、副腎皮質ホルモンは衛気、甲状腺は腎陽や心気などそれぞれの臓腑の働きに割り振られて沢山の処方が考えれています。

7.自律神経の乱れ
自律神経は中医学的には気の流れです。
肝と脾との関係が深く、得に疏肝理気という方法がストレスなどによる自律神経失調によく使われます。

8.暴飲暴食などによる胃腸障害
消化を助ける消導薬という処方がいくつもあります。

9.食生活の乱れや運動不足による生活習慣病
血流の障害や体内に分解しにくい不要な汚れがたまってしまう場合が考えられます。
遺伝的な素因も関係しています。
これに対して、汚れをきれいにする処方があります。
血の汚れを綺麗にして血流を改善する活血化瘀
脂の汚れ、水の汚れ、繊維の汚れを綺麗にする化痰薬などがあります。

11.老化
この分野は昔から執拗に処方が研究され、時に行き過ぎた薬害などもありました。
今は重金属を含む処方は使われなくなりましたが、昔はよく使われていたようです。
中医学が老化に対してどの程度の効果が出るかは未知数です。
老化は遺伝子発言、エピゲノムにかかわる部分が多く、この分野の薬は西洋医学でもまだ開発されていないようです。
私は補腎薬がエピゲノムに働きかける可能性があると思っています。

12.過労 睡眠不足
体力をつける漢方や、疲労回復の漢方は沢山あります。
勿論、それだけにたよるのは良くないですが、黄耆、人参、冬虫夏草など利用価値はあります。

13.体を守る菌の不足 胃腸や皮膚、口腔、皮膚、子宮内や膣など
皮膚や粘膜を潤す漢方、たとえば甘露飲などが良い細菌を増やす作用があるかもしれません。
今後の研究が待たれます。

14.栄養失調
漢方薬は食事の代わりにはなりません。
ただ、栄養の吸収を助ける作用はあります。
私がいつも言うのは「漢方薬は大工さん。どんなに腕の良い大工さんでも材料がなければ家はつくれません。」と言っています。
中国語では「どんなに料理の上手な奥さんでも、米がなければご飯は炊けない」と言います。



442.中医学で脳は何処にあるの?

人間の体の中で一番大切なのは何処かと考えてみます。
勿論、どの臓腑も大切ですが、大抵の臓腑は機械で置き換えられます。
人工肺、人工心臓、透析など。
そうすると肝臓はまだ人工的には難しいでしょうが、肝臓は移植できます。
そうなるとやはり脳でしょう。
人工知能はできても人工脳は出来ないでしょうし、脳移植が成功しても記憶も人格も変わってしまいます。
では、その一番大切な脳は、中医学で何処にあると考えているのでしょうか?
脳の働きは心にあると考えています。
心は心臓だけでなく、心(こころ)とも言えるからです。
中医学の基礎になる黄帝内経が出来たころは、まだ脳という臓器はよく理解されていませんでした。
興奮すると、心臓がドキドキします。
だから、ものを考えているのは脳ではなく、心だと考えていたのでしょう。
しかし、時代がすすんでものを考えているのは心臓ではなく脳だとわかってきました。
この場合の脳は、髄海といって、脊髄の集まった海と考えました。
脊髄は、骨の一部で五臓では腎の一部です。
そうすると髄海は腎の一部となります。
さあ、困った事になりました。
働きとしての脳は心に属し、物体としの脳は腎の一部なのです。
脳を治療する場合、心を治療するか腎を治療するかの問題が出てきます。
これは中医学で臓腑を無理やり五行に当てはめた弊害です。
私の考えでは脳は独立して臓として、心でも腎でもない、新しいカテゴリーを作るべきではと思っています。

五臓以外に五行をむりくり当てはめた弊害は季節にもあります。
季節は春・夏・秋・冬の4つしかないのに五行に当てはめるため無理矢理に長夏という季節を作ってしまいました。
さらに長夏はいつなのかというのも2つの説があります。
そんなあいまいな季節を作ってまで五行に当てはめる必要はないのではと思います。

441.肝は脾との関係だけでない

五行の相克で一番良く使われるのは木克土だ。
肝が強くなると土が弱るという図式だ。
肝は自律神経のようなもので特に交感神経に近い。
ストレスなどで交感神経が興奮すると胃腸の働きが悪くなり、食欲がなくなる。
これが肝脾不和と良い、木克土で説明している。
確かに、交感神経を肝、副交感神経を腎とすればこの関係は成り立つかもれない。
しかし、交感神経が興奮すると影響は胃腸だけでない。
心臓がドキドキして不眠になる。これは心に影響したのだ。
また、呼吸が浅くなったり、過呼吸になる。胸がつまる感じで呼吸がしづらくなる。
これは肝が肺をいじめているのだ。
ストレスが長く続くと肝火上炎になり、肝血や肝水の不足になる。
不足した分を補うように腎から腎陰を吸い上げる。
これは肝が腎をいじめているのだ。
そうすると、肝はすべての臓をいじめる性質がある。
これを「肝は五臓の賊である」と言っている。
このように肝の相克は脾だけでなく、すべての臓と相克関係にあると考えられる。


440.肝の陰について

肝陰について考えると、実は2種類に分けられる。
一つは肝血。そしてもう一つは肝血以外の肝陰。
この肝血以外の肝陰は名前が無い。
そこで、ここでは「肝水」という名前をつけたい。
肝血を補う薬と肝水を補う薬は明確に違う。
肝血を補う薬は沢山あるが、肝水を補うものは少ない。
例えば枸杞子、女貞子、旱蓮草などだ。
枸杞子は肝水だけでなく肝血も補う作用があるし、女貞子と旱蓮草は肝水だけでなく腎陰も補う。
肝水は肝血や腎陰と相互に補いあっているのだ。
必要に応じて肝水は肝血や腎陰に変化するのだ。
肝血も肝水になり、さらに腎陰になる事が出来る。
だから腎陰を補う時に肝血を補う方法もあるのだ。
五行の図を見ると腎から肝へ向かうルートはあるが肝から腎に向かうルートは無い。
しかし、腎陰虚の時に肝血や肝水を補う方法もあるのだ。
これを中医学では肝腎同源と言っている。
腎から肝に向かう矢印は→ではなく⇔にするへきなのだ。


439.黄帝内経の哲学的思想 陰と陽

黄帝内経は、体の内部の状態、生理的働き、病理、養生などを観察して、哲学的な理論で説明している。
この中で、陰陽の思想がある。
究極的に言えば陰は目に見えるもの、陽は目に見えないもの。
ロウソクは陰だが炎は陽だ。
ロウソクが燃えると炎が出来、最後にはロウソクは燃え尽きてなくなる。
これは陰が陽に転化したと考えられる。
ちょっと相対性理論の質量とエネルギーの関係にも似ている。
冷たいコップのまわりに水滴がつく。
これは水蒸気という目に見えない気が、冷やされて結露し目に見える水に転化した。
陽が陰に転化したのだ。

438.中医学と哲学

中医学の理論の基礎になっているのが黄帝内経。
黄帝内経は科学がまだ未発達の時代に体の内部の働きを観察して哲学的な理論を作った。
当てはまっている部分が非常に多いのだが、ちょっと強引な部分もある。
中国の古典哲学に五行説というのがあり、色々なものは木、火、土、金、水のどれかの性質を持つというものだ。
そして自然界の色々なものを五行に当てはめた。
人間の臓腑も五行に当てはめている。
実はこれはかなり強引で、実情にあわない部分も多い。
だから五行に関しては、全面的に正しいと思わない事が大切だ。

さらに黄帝内経には五運六気という理論も盛り込まれている。
これは今の四柱推命に似ている。
確かに気候には周期性があるのは解るが、それが60年周期とは思わない。
今の中医学の世界では、五運六気を治療に取り入れている治療家は少ないし、それで良いと思っている。
中医学が正しい方向に発展するためには、あまり迷信的な理論は使わないようにする方が良いと思う。

437.西洋医学と中医学の違い

西洋医学と中医学の違いはいくつもあります。
その中の一つとして、病気が先か薬が先かという問題があります。
西洋医学の場合、病気がおこる原因を探します。
そしてその原因が見つかると、それに効く薬を探します。
抗生物質のように自然界から探す場合もあれば、合成して作る場合もあります。
最近はバイオの技術を使い、さまざまな薬を開発しています。
このように、病気が先で、薬は後という事になります。

中医学の世界は、そうではありません。
中医学で使うのはすべて生薬と言うもので天然物です。
人間はまず、植物や動物、鉱物など薬になりそうなものを食べてみます。
そうすると体が反応します。
体が温まるのを熱薬、少し温まるものを温薬、熱をさますものを寒薬、少しさますものを涼薬、どちらでも無いものを平薬としました。
また便が柔らかくなるもの、便が固くなるもの、汗が出るもの、汗がとまるもの、食欲が出るもの、痛みが和らぐものなど、さまざまな作用を体験して、分類していきました。
これが生薬学です。

中医学がすごいのは生薬学だけで終わらない点です。
どこの国の民間療法もだいたい生薬学で終わっています。
中医学には理論があります。
インドのアユルヴェーダとかチベット医学にも理論がありますが、理論がある民間療法は少ないでしょう。
中医学の理論は、科学的ではありません。
どちらかというと哲学的なものです。
ただ、長い年月の中で、間違っているものは正し、役に立たない理論は捨てられていきました。
今、受け継がれている理論は、確かに効果があると考えられる理論です。
科学的な理由は説明出来ないものもあります。
ただ、それが治療に役立つなら、非科学的だと言って無視するのは勿体ないと思います。
そして中医学の理論に基づいて生薬を組み合わせて病気を治療したのが方剤です。
生薬は自然界のものですが、処方は中医学の理論を駆使して作られたものです。
ですから、処方こそ中医学の精華と言えるのです。

436.成功の反対は失敗ではない。

成功の反対は失敗ではありません。
成功の反対は「何もしない」です。
何度失敗しても、チャレンジし続ければ、いつか成功する可能性があります。
しかし、何もしなけりば成功する可能性は全くありません。

好きの反対は嫌いではありません。
好きの反対は無関心。
好きも嫌いも、相手の事が気になっているからです。
嫌いに思っている人で急にもいなくなると淋しいかもしれません。
相手を気にかけているという事では好きも嫌いも同じです。

435.非科学的なもの

非科学的なものを信じるかどうか。
これは人によって随分違うと思う。

占いを信じている人。
祈祷を信じている人。
ある種の宗教を信じている人。
天国の存在を信じている人。
輪廻転生を信じている人。
霊魂を信じる人。
スピリチュアルな力を信じる人。

科学的な考えが好きな人はこれらを否定するだろう。
私はどちらかと言うと理科系思考なので、どうしてもこれらのものを全否定してしまう。
ただ、大切なのは信じる信じないは一人一人の自由であるという事。
他人に危害が及ばないなら、自分の考えを押し付けずに、その人の考え方を大切にしてあげる事が大切なのだと思う。
「これらの考えを理解し尊重はするが私自身は信じてはいない」という立場だ。

434.平均値の落とし穴

よくデータで平均値というのが使われる。
平均がいくらいくらと言われると、おおよそ皆そんな感じと思う。
しかし、平均は「実態のおおよそ」と全然違う事がある。
平均の欠点は、数値の大きい人が一人でもいると全体の平均が引きずられて大きくなってしまう事だ。
例えば、100人の給料の平均を出すのに、その中に一人、イーロン・マスク氏のような人がいたらどうなるか。
イーロン・マスク氏の給料は30兆円と言われる。マスク氏以外の人の給料が1円だったとしても平均値は一人3000億円!
こういう人がいると平均は実態からかけ離れてしまう。
そこでより実態に近いのが中央値。
少ない人から多い人に順番に並べて、真ん中の人の値を使う。
これが実際の感覚に近い。
ではなぜ、中央値ではなく平均を使うのか。
理由は平均の方が計算しやすいからだ。
平均の場合は、一人一人の値を順番に合計して、最後に人数で割れば出る。
これに対して中央値は全部のデータを保存して並べ直す必要がある。
この並べ直すという作業は、人間にとってはとても大変なのだ。
100件くらいならできなくも無いが10000件手作業となるととても大変。1日かかっても終わるかどうか。
しかし、今はコンピュータがある。10000件のデータの並べ直し(ソート)なんて一瞬で出来る。
入力の手間は同じなので、平均も中央値もコンピュータを使えば計算の手間はあまり変わらない。
なので、そろそろ平均値はやめて中央値を使うようにした方が良いと思える。
なのに何故そうならないのか?
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