深谷薬局 養心堂

漢方薬局 深谷薬局養心堂

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234.六経辨証

六経辨証は、今から2000年くらい前に書かれた『傷寒論』という本の中に記載されている方法です。
2000年も前に作られた理論が今でも通用する所が漢方のすごい所です。
『傷寒論』は、傷寒という病気について書かれています。
傷寒は、主に冬に流行する伝染病です。
実際には冬に流行するものだけでなく、夏に流行する伝染病もある程度治療する事が出来ます。
このため、夏に流行する伝染病の専門書はずっと作られませんでした。
今は、伝染病の治療は傷寒と温病というおおまかなくくりで治療されています。
傷寒は、風寒という邪気が体表から体内に入り込んで起こる病気と考えています。
まず最初に入ってくる場所が太陽膀胱経で、この部分に邪気があるものを太陽病とよびます。
太陽病は主に経絡に邪気が存在しますが、一部、経絡をつたわって膀胱に邪気が入り込む場合があります。
経絡に邪気がある時は桂枝湯や麻黄湯で発散して邪気を取り除きます。
膀胱に邪気が入り込んだ場合は五苓散などで利尿します。
太陽に入り込んだ邪気は直接陽明に伝わるか一旦少陽に伝わってから陽明に伝わります。
始めは寒邪だった邪気もこのあたりで化熱して熱邪と替わります。
夏の伝染病を傷寒の理論で治せるのは、このためです。
陽明は陽明胃経です。
陽明の経絡に邪気が入り込むと、高熱が出て脈が洪大となります。
この次期に良く使うものが白虎湯です。
胃の腑に邪気が入り込むと、化熱して便秘になります。
この時に使われるのが承気湯類です。
少陽は、足少陽胆経と手少陽三焦経です。
一般的に傷寒は足の経絡を重視しますので、少陽胆経との関係が深いはずですが、実際の症状は三焦経の症状が多くなります。
この時期の代表方剤は小柴胡湯です。
陽明に伝わった邪気がなかなか治らないと、病気に対する抵抗力がなくなって陰証となっていきます。
陽明の邪気が陰に転じると太陰病となります。
太陰病は太陰脾経を中心とした病気で、お腹の痛みなどが特徴です。
太陰病はやがて少陰に邪気をつたえます。
少陰腎経を中心とした病気です。
少陰病の特徴は、寒熱の違いがある事です。
少陰の寒証は身体を温める力が不足して、体力も消耗した状態です。
附子など強力に温める生薬を使って陽気を回復します。
少陰の熱証は体力の低下があるものの邪気は化熱したままの状態です。
黄連阿膠湯などを使います。
少陰病が治らないと、心や腎が衰えて、命がなくなる可能性があります。
一部の病人は、持ちこたえ、厥陰病となります。
厥陰病は厥陰肝経の病気で、熱と寒のバランスが悪くなり、様々な症状があらわれます。
非常に複雑でやっかいな状態と言えます。

233.八綱辨証

漢方を使えば、それが漢方治療だと思っている方が多いのですが、それは正しくありません。
例えばスパゲッティで「かけうどん」を作って、それがイタリア料理を食べたと言えるでしょうか?
漢方薬は材料です。
大切なのは材料よりも調理方法です。
その調理方法が弁証論治なのです。
弁証論治にはいくつもの方法がありますが、その総括が「八綱辨証」です。
八綱は「陰陽 表裏 虚実 熱寒」を意味しています。
ただこの方法はとても大雑把な辨証なので八綱辨証だけで処方を決定する事はできません。
例えて言えば、本の目次のようなものです。
まず表裏。
表は体表、裏は内臓を表します。
表と裏の間の筋肉などは半表半裏に属します。
虚実
身体に必要なものが不足しているも状態を虚、余分なものがたまっているのを実といいます。
決して体力があるとか無いとかは関係がありません。
この部分は日本式漢方とは異なるので注意が必要です。
熱寒
単純には、身体が熱く感じるのを熱、寒く感じるのを寒としますが、熱寒の指標としては、舌の色、脈の速度や状態、口渇があるか、便秘があるか
尿の色なと色々な要素を総合して考えます。
例えば熱には虚熱と実熱があり、さらに真熱と仮熱があります。
虚熱は、陰など身体の潤いが不足して身体がほてっている状態です。
実熱は体内に邪気があり、それで熱が生じている場合です。
化熱とは、本当は寒の状態にあるのに見かけ上は熱に見えるものです。
たとえば、顔が赤く、息もハアハアとあらく、いかにも熱があるように見える状態なのに、尿が白く透明、口渇はなく、脈は沈微、下痢をして、舌の色は薄くまて時に黒苔があり湿っている。
このような場合は、この熱は真熱ではなく仮熱の可能性があります。
仮熱の場合は冷やす薬を使ってはならず、使うと悪化します。
さて、陰陽は、表裏、虚実、熱寒の総括です。
八綱は辨証論治の総括ですから陰陽は総括の総括と言われます。
表、実、熱を陽
裏、虚、寒を陰とします。
陰陽は全体のイメージをつかむのに必要です。

232.中医学の陰と陽

陰と陽は中国哲学の考え方で中医学にも広く取り入れられています。
陽は、明るい、暖かい、活動的などの状態を象徴しています。
例えば炎、太陽などは陽気が多いものです。
ただし、炎の中にも陰陽があり、太陽にも黒点があります。
ですので、何か1つのものだけみて、それが陰か陽かという事は決められません。
かならず2つのものを比較します。
例えば男女を比較すれば、男は陽で女は陰とります。
上と下を比較すれば、上側が陽、下側が陰となります。
内側と外側を比べれば内側が陰、外側が陽となります。
火と水を比べれば、火は陽、水は陰になります。
しかし、火の中にも陰が含まれていて、水の中にも陽が含まれています。
純粋な陽は、概念としては存在しますが、物としては存在しません。
純粋な陽の概念は「乾」で、純粋な陰は「坤」です。
どちらも八卦の中に含まれています。

231.有形の痰と無形の痰

痰には有形の痰と無形の痰があります。
有形の痰は、下の水毒の所で述べたものです。
これに対して無形の痰というものがあります。
中医学の用語で「怪病は痰を疑う」という言葉があります。
怪病は原因がよくわからない病気などです。
無形の痰とは、体の表面からは解らない痰です。
例えば昔の人は「てんかん」という病気は原因がよく分からないため、怪病と考えられていました。
このような場合は、例え表面的には痰がなくても脳の中に痰湿がたまっていると考え、温胆湯を使う事が多く、実際に治る事も多かったようです。
ただし、「てんかん」はすべて温胆湯という訳ではありません。
舌や脈、その他の症状から痰の存在を類推していく事が大切です。

230.水毒について

水毒という言葉は、日本漢方ではよく使いますが、中医学にはありません。
中医学では水毒をもう少し細かく考えています。
 湿  余分な水。サラサラとしている。
    脾胃が冷えていたり、腎陽虚などによく見られます。
    肺気の流れが悪くなった場合にも見られます。
 湿濁 普通の湿より汚れがつよく、少し粘る事もある
    冷えが原因の場合も、熱が原因の場合もあります。
 痰  ねばっこく、時に脂っこいもの。
    気管支から出るだけでなく、体のあちらこちらにたまる。
    成分は水と脂が混ざったようなもの。
    これも冷えが原因の場合と熱が原因の場合があり、寒痰と熱痰に分けて考えます。
    舌が湿っている場合は寒痰が多く、乾いている場合は熱痰が多くなりますが、口渇、脈などその他の症状もあわせて考えます。
 痰濁 痰と湿濁をあわせたもの
 痰湿 痰と湿をあわせたもの
このように分類して考えます。
体が冷える事によって水の流れが悪くなり、湿が増える事が多いようです。
体内の陽気は、津液を気化して体内をめぐらせます。
腎の陽気が不足するとこの気化の働きが悪くなり、余分な水がたまると考えます。
脾の陽気が不足すると、脾の運化(消化吸収)の力が弱くなり、水分を吸収する力が弱くなります。
これも湿がたまる原因です。
肺気、体中に気を巡らせる作用がありこの作用がうまく行かないと、やはり肺の中に痰や湿がたまっていきます。
また熱により津液が煮詰まって、痰濁などとなる事もよくあります。
痰は水だけでなく脂を含めています。
中性脂肪などは痰の一部と言えます。

229.陳久瘀血について

血液の汚れを中医学では瘀血(おけつ)といいます。
中医学の普及とともに瘀血という言葉も大分と普及してきました。
一口に瘀血といっても色々なものがあります。
その中で、子宮内膜症やチョコレート嚢腫と関係が深いのが陳久瘀血という概念です。
陳久瘀血は、血管の外で古くなって固まった血です。
このようなものは、一般的に血液をサラサラにするものではなかなか改善できません。
陳久瘀血を改善するには動物性の生薬が必要です。
よく使われるのがヒルやミミズです。
ヒルは2千年も前から「水蛭」という名前で使われ続けています。

228.卵管の閉塞

両方の卵管が閉塞していて、体外以外に妊娠の方法が無いとお医者さんに言われた方が、漢方薬を飲んで卵管が通る事があります。
たまたま、1日に2人の方から卵管が通ったという報告がありました。
1人の方は、造影剤の検査で両方の卵管が完全につまっていると診断された方です。
3ヶ月漢方を飲んでもう一度検査したところ、うまく通っていました。
次の人は、通水検査を2回と通気検査を受け、いずれも全く通っていないと言われ、1ヶ月後に造影剤検査を行う事になっていました。
検査を受ける前にと1ヶ月漢方薬を飲んでもらいました。
そして検査を受けた所、全く問題ないとの事でした。
通常、漢方の効き目が出るまで3ヶ月くらいはかかるのでこのような短期間で効果が出るのは珍しいと思われます。
通水検査や通気検査を何回か受けているので、それも良い漢方とあわせて良い結果につながったのかも知れません。

227.中薬物語 竜眼肉

昔、昔、銭員外という名前の人が年をとってから子供に恵まれました。
ただ息子は痩せて小さく、風に飛ばされそうな風体でした。
そこで銭員外はあまねく名医を呼びあつめ薬を処方させました。
ある時、遠方の親戚が言いました「竜眼肉は虚弱でひよわな体質を改善するのにとても良い。東の海辺のお百姓さんたちは家々にみな竜眼肉の樹を植えている。
竜眼肉を食べると体は丈夫になり、病気をしない。」と。
銭員外はこれを聞いてとても喜び、すぐに東の海で沢山の竜眼肉を手に入れるように命じました。
連続1ヶ月、息子にこれを食べさせ、あまった実の肉は干して乾かし、種は庭に植えました。
息子はますます竜眼肉を食べ体はとても丈夫になりました。
それから息子は銭員外の指導のもと、勉学や武道にはげみ、名をなし、庶民の幸福を願う立派なお役人さんになりました。

226.中薬物語 茘枝核

ある日、中国の唐代の有名な詩人、白居易が家の中で詩を推敲している時に南方に住んでいる友人が訪ねてきました。
かれは成熟したばかりの茘枝の実をもってきました。
そこで二人は茘枝を食べながら詩について語り合いました。
この時、白居易の妻の春蘭が来て机の上にならんでいる沢山の茘枝の食べ終わった実の種を見て、紙に包んで引出に入れました。
1ヶ月後、白居易は疝気という病気になりました。(鼠径ヘルニアや睾丸が腫れるなど、下半身にしこりが出来る病気の総称)
動くのも大変でした。
春蘭はお医者さんの所に行き処方を書いてもらいました。
そのお医者さんが書いた処方が茘枝の種でした。
そこで春蘭はしまってあった茘枝の種を取り出し煎じて飲ませました。
何日もしないうちに白居易の病気は治ってしまいました。
それから白居易は会う人会う人に「疝気は茘枝の種を飲むとすぐによくなる」と言いました。
その後、白居易は都に引っ越しました。都で御医に会った時にもその話をしました。
ちょうどその御医は漢方薬の本を編集している時でした。
そこでひの御医はその本の中に「茘枝核」として茘枝の実の話を加えました。
それで茘枝核の効能が後生に伝わる事になったのです。

225.中薬物語 枸杞子

伝説によれば、昔、お役人さんが出張に行ったとき、16-7才くらいの綺麗な女性が、白髪あたまの老人を竹竿でたたこうとして追いかけ回しているのに出会いました。
お役人さんは、娘をひきとめ、どうして老人をたたくのかと聞きました。
その娘が言うには「私がたたこうとしているのは私の孫の子供、つまりひ孫です。私の家には良薬があるのにちっとも飲もうとしない。だからまだあんなに若い年なのにもうこのように老けてしまったのです。
それでたたいて懲らしめようといていたのです。」
お役人は好奇心にかられて娘の年令を聞きました。娘は「372才」と答えました。
お役人さんはびっくりして、すぐ、その長寿の方法を聞きました。
娘は、枸杞子を毎日食べる事だと答えました。
この話はいかにも中国らしい作り話です。
いくら枸杞子が体に良いからといって372才になっても16-7才のような綺麗な娘のはずがありません。
あたかもドラえもんのポケットのように、こんな薬があったら良いなと言う事でしょう。
ただ、全くの出鱈目ではなくて、やはり枸杞子は体にはとても良いものだという事を伝えたかったのでしょう。

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