目次形式に切り替える214.血虚と貧血
中国医学では、血の不足を血虚といいます。
この血虚は貧血と似ているけども違いがあります。
貧血は、血液を採血して、その成分が濃いか薄いかをみるものです。
血液が濃くても量が少ない場合もあります。
また血液が薄くても量が多い場合もあります。
血虚とは、血液の量が少ない事を言います。
血液の量は、血流計などを使って1分間の血流量を量る事である程度推測出来ます。
また、慣れてくると、望診(顔色、舌の色、つめの色)や脈診で血虚があるかないか判断出来るようになります。
貧血がある人でも、血液の量が多い場合は血虚の症状はあまり現れません。
逆に貧血とは言われなくても血液の量が少ない時は血虚の症状が出て来ます。
ですので、体にとっては貧血よりも血虚を重視した方が良いのですが、貧血が数値で出る客観的な指標にたいして、血虚は中医師の判断にゆだねられます。
このため判断にバラツキが出てしまうのが難点です
213.季節による加減
中国の明の時代の奇効良方という本の四物湯の所に季節による加減がのっています。
面白いのでご紹介します。
春 川きゅうを2倍にする。必要におうじて防風を加え防風四物湯とする。
春は脉が弦になり、頭痛がよく起こる。
夏 芍薬を2倍にする。必要に応じて黄岑を加え黄岑四物湯とする。
夏は脉が洪になり、下痢がよく起こる。
秋 地黄を2倍にする。必要に応じて天門冬を加え門冬四物湯とする。
秋は脉が沈澀で血虚となる。
冬 当帰を2倍にする。必要に応じて桂枝を加えて桂枝四物湯とする。
冬は脉が沈となり、寒くて食べられなくなる。
脉は季節に応じて変化します。ここにある四季の脉はみな標準的な脉です。
今は暖冷房が完備しているので季節による加減はあまり行われなくなりました。
それでも人間の体は四季に応じて変化しています。
ですので、季節を考えて漢方を選んでいく事はやはり必要です。
212.漢方を飲む時間
最近、よく質問される事として漢方薬を飲む時間があります。
いつ飲むのが良いのか、どの時間に飲むと効果的かという事です。
その前に、まず、はっきりと理解していただきたいのは、特殊な場合を除いて、飲む時間はあまり重要ではないという事です。
それより大切なのが、ちゃんと飲む事です。
例えば食前に飲む予定が飲み忘れてそのままになってしまう。
これではせっかくの漢方薬は何にもなりません。
まず、時間にこだわらず決められた回数、決められた量を飲む事です。
毎日、忘れずにちゃんと飲めて、さらに時間にも余裕がある場合、それから時間にこだわって下さい。
一般的には空腹時の飲むと、一気に吸収されます。
ただし、効いている時間は短くなります。
食後に飲むとゆっくりと吸収されます。
この場合、効いている時間は長くなります。
ですので結局は同じ事になります。
ただ、もし風邪などの場合とか、頭痛がひどいなど、今すぐに治したいという場合は空腹時に飲みます。
これに対して、長期間飲む体質改善などの場合は、空腹時でも食後でもあまり大きな差はありません。
ただし、「なんとなく効いている感じ」というのは空腹時の方があると思います。
これに対して胃が弱い場合などは食後に飲むようにするといいでしょう。
これとは別に、補腎薬などは寝る前に飲むと効果があります。
ホルモンの分泌は寝ている間に多くなります。
ですのでホルモンの分泌を助けるような補腎薬は寝る前が効果的なのです。
211.冷えの改善と暖める事
よく冷え症の人が、体が冷えないように何枚も靴下をはいたり、カイロをいくつも体にはっています。
勿論、体温を維持していく事は必要な事です。
しかし、たいして体が冷えていないのにいつも厚着でいたり、カイロを貼る人があります。
その事が冷えの改善につながると思い込んでいる人もあります。
しかし厚着は決して体質改善にはなりません。
もともと、人間の体は体温を一定に保とうとする働きがあります。
もし常に厚着をしていたりカイロを沢山はっていたら、この働きが弱くなってしまい自分で熱を作りにくくなってしまいます。
これでは体質改善どころか、逆効果になります。
寒い時でも少し薄着になって運動する事は大切です。
熱をつくるには酸素が必要です。
酸素を取り込むには運動が効果的です。
過度の運動はおすすめしませんが、ある程度の代謝を維持するために運動は不可欠です。
冬の寒い時、雪合戦をした後、指がじんじんとしますがその後、不思議とポカポカしたのを覚えていませんか?
勿論、あまりやせがまんして体調を壊しては困ります。
少しずつ、寒さに慣らす感じで体を鍛えて見て下さい。
210.筋・肌について
中国で一般的に使われている中医学の用語と、日本語では微妙な食い違いがあります。
例えば中医学でいう「筋」。
これは日本語の筋肉の意味ではありません。
「筋」は、日本語の「すじ」に近いものです。
現代医学でいう所の「腱」とか「神経」「筋膜」などをさしています。
肌は、日本でいう所の皮膚ではなくて、「筋肉」を意味します。
中国語では肌肉と肌は同じ。どちらも日本語の筋肉(きんにく)を意味します。
例えば日本語の上腕二頭筋は、中国語では上腕二頭肌となります。
この筋と肌の意味の違いが分からないと、大きな間違いをしてしまいます。
例えば中医学では「肝は筋を司る」と言います。
ここで筋を筋肉ととらえて、筋肉の病気を肝と考えると間違えてしまいます。
この場合の筋は、運動神経に近いものです。
特に、錐体外路系の障害などは肝と関わりが深いものです。
「脾は肌を司る」
脾は胃腸の消化吸収ですから、胃腸の働きが良く成ると皮膚が綺麗になる...という事ではありません。
このの肌は筋肉ですから、筋肉の萎縮などは脾虚と関係があるよ、という意味になります。
このように中国語と日本語で微妙に意味が違う場合、特に注意が必要です。
209.体力があるかないか...について
漢方の効能効果の所に「比較的体力があり...」とか「体力中等度以下で.....」とか、「体力虚弱で...」とか書かれています。
しかし、この表現はあまり正しいとは思えません。
日本漢方では体力のある人を実証、体力の無い人を虚証といます。
そして、この漢方薬は実証向けだから、君には合わないとか、君は虚証だからこの漢方が合うといった言い方をしています。
しかし、中医学では、実は邪実で、邪気がたまったものです。
正気がたまった場合は、体力はあっても病気にはなりません。
邪気は病気の原因になりますから、邪実の場合は邪気をとる漢方薬を使います。
これを瀉剤といっています。
日本漢方では殆どの瀉剤には「比較的体力があり」と記載されています。
しかし、体力が無い人にも邪気はたまります。
中医学の用語でも「邪のある所、その気必ず虚する」というものがあります。
つまり正気の不足があるから、邪気がつけこんで入ってくるのだという事です。
もし正気が充分なら、邪気を跳ね返す力があるはずです。
(よほど強力な邪気は別です)
この事から、体力が無い人にも瀉剤が必要な事はよくあります。
ですから、体力が無い人にも「比較的体力があり」と記載されている、例えば桂枝茯苓丸などが必要な事はよくあります。
ただし、瀉剤は補う力がありません。
正気の不足がある場合は、正気の不足を補う必要があります。
このような処方は補剤といわれます。
補剤には「体力虚弱で」と記載されています。
一般的に病気の人は、先ほども言ったように、邪気の存在(実)と正気の不足(虚)が混在している事が多いのです。
つまり、日本漢方式に考えると「比較的体力がある」ものと「体力虚弱で」という2つの処方を同時に使う事になります。
どうしてこのようになってしまったのかというと、効能効果が決められた時にはまだ中国との国交がなくて、正しい中医学が日本に入って来ていなかったからなのです。
今は、中国との国交もあり、正しい中医学がどんどんと日本に入って来ています。
古い日本漢方式の表現だけしか書かれていない漢方薬の効能効果は時代遅れのものになってしまったと思われます。
208.漢方は即効性があるかについて
漢方は即効性があるかどうか、昔から色々と議論されていました。
結論から言うと、即効性のあるものと、続けないと意味が無いものがあります。
今から100年以上前ですと、抗生物質、解熱鎮痛薬、ステロイド剤などは無かったので、あらゆる病気は漢方薬で治す必要がありました。
この中には、チフス、マラリア、赤痢などの急性の伝染病も含んでいます。
こういった、今すぐ命にかかわるような病気は、即効性が求められます。
このよな期待に答えるため、そのころの漢方薬は飲む量も多く、作用の強いものを多く使いました。
よく使われたのが、麻黄、附子、大黄、石膏などでそれもかなり大量を使いました。
このようにする事で、沢山の急性伝染病を治療していました。
そして、その効果は想像以上に良かったようです。
さて、時代は代わり、このような命にかかわるような急性の伝染病は、西洋医学の薬が使われるようになりました。
そうすると、漢方医学はどちらかといと日陰者扱いとなってしまい、西洋医学では治せないような慢性の病気を治療するようになりました。
慢性の病気を治療する場合、その症状を抑える標治と、病気の根本を治療する本治があります。
標治に関しては、即効性という意味において、やはり西洋医学のお薬にかないませんでした。
そこで、漢方薬は、殆どの場合、慢性病の本治、つまり体質改善として使われるようになりました。
このような事から、漢方薬は即効性が無いと思われています。
実際、漢方薬で体質改善をする場合は、即効性は期待できません。
ですので、「漢方薬は即効性が無い」というのは半分はあたっていると言えます。
207.中医学の歴史9 西洋医学の台頭
中国にも日本にも西洋医学の理論、診断、治療が入ってくると、どうしても西洋医学の速効性という面ばかり注目されて、体質改善とか、副作用が少ないなどの中医学の利点はないがしろにされてしまいました。
この結果、西洋医学を学んだ者以外は医者にあらず、といった考えで中医学や漢方医学は否定されてしまいました。
中国では、幸いにも国民党時代がおわり、毛沢東が率いる中国共産党が革命勝利しました。
毛沢東のスローガンで、中医学は中国の宝とされ、めざましい中医学の復興をみました。
1950年代には、全国の各省に中医学院がおかれ、付属病院がおかれました。
現在では中国国民の中医学に対する意識も高まっていて、西洋医学の利点、中医学の利点をうまく使った治療をおこなっています。
これに対して日本では、漢方はいまだに正式な医学として認められていないと言っても良い状態です。
漢方専門の大学も病院もありません。
漢方をいくら勉強しても医者の資格はもらえません。
「西洋医学を学ばざるもの医師にあらず」の精神が今でも残されています。
また、漢方の効能効果も、西洋医学的な病名で記載されています。
新しい漢方薬の認可を受けるにも、西洋医学的な基準が適応されて、中医学の独自の辨証論治により体質によって使い分けるという基本理念は無視されてしまっています。
これではどんなに素晴らしい漢方薬でも、新しい認可を受けるのは困難です。
大変残念な事と言えます。
206.中医学の歴史8 日本漢方の問題点
日本は江戸時代の鎖国のため、中国の新しい理論が伝わらなかっため、中医学は「漢方医学」として日本独自の進化をしました。
急性の感染症を治療するには古方派の考えはすぐれていました。
これに対して慢性病の治療は、臓腑辨証により、体質改善していく方法がすぐれています。
古方派の台頭により、後世派の考えがすたれてしまい、臓腑辨証という考え方が日本ではあまり用いられなくなりました。
代わりに考案されたのが腹診です。
お腹の状態を見る事により、どの部分に問題があるかを判断する方法です。
腹診は直接に処方を決めるとても良い方法ですが、やはり問診を中心とした臓腑辨証の考え方が必要と思います。
また、使われる処方も、江戸時代の鎖国や中国との国交が無かった事などが影響して、清朝以降に考えられた処方は日本漢方では殆ど使われていません。
傷寒論や金匱要略の時代の処方が多く、現代中医学の基本処方すら漢方医学では使われていません。
205.中医学の歴史7 温病
感染性の急性病の治療には、日本では傷寒論を応用していきました。
感染性の急性病には、大きく分けて2種類あります。
一つは、寒気を強く起こす「傷寒」という種類。
もう一つは熱が強い「温病」です。
傷寒論はこのうち「傷寒」の治療には優れていますが、「温病」の治療の解説は粗略でした。
そこで中国では、金元の後期から明、清の時代にかけて、傷寒論から分かれて、温病の治療が大いに発展しました。
これによって中国の急性伝染病、特に疫病の治療は長足の発展をしました。
ところが、江戸時代の鎖国のため、残念ながらこれらの温病の理論は日本には伝えられませんでした。
この為、日本では温病も傷寒論の処方を応用して治療されていました。
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