深谷薬局 養心堂

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194.病名漢方

漢方薬を西洋医学の病名で処方する事があります。
これを「病名漢方」と言います。
病名漢方は、漢方の知識が全くなくても、西洋医学を知っていれば漢方を使えるので多用されがちです。
しかし、これは正しい漢方の方法ではありません。
漢方薬は病名以外に、その人の体質や、状態を重視します。
時に周りの環境とか季節までも考慮します。
病名が同じでも、使う漢方薬は一人一人の体質や状態によって違ってきます。
例えば、風邪の場合。
寒気が強い場合は暖める作用のある処方を使います。
逆に熱寒がつよく、喉が渇くなどの場合は冷やす作用のものを使います。
これを使い間違えると、症状は悪化します。
また同じ暖める作用のものでも、気虚といってエネルギー不足の場合は麻黄などが沢山含まれたものを飲むと体力が消耗してしまいます。
このように病名だけでなく体質を考えて漢方を使うと効き目が良くなるだけでなく、副作用を予防する事が出来ます。
これを同病異治といいます。
同じ病気でも体質や状態によって違う治療を行うという事です。
西洋医学でも、最近は遺伝子配列を調べて、あらかじめ薬の効き目や副作用を予測する方法が開発されつつあります。
この考え方は漢方の考え方に近いものです。
これに対して異病同治という考えがあります。
例えば、中医学では血液の汚れの淤血や、汚れた水、脂、繊維が原因の痰湿という病邪があります。
淤血によって引き起こされた病気であれば、西洋医学の病名が何であれ、淤血を綺麗にする漢方を使います。
これを異病同治といいます。
異病同時は西洋医学でもよく用いられている手法です。

193.神

神といっても、天国の神様ではありません。
神の意味に一番近い言葉は、意識かも知れません。
つまり、神があるとは意識がある、神が無いとは意識が無いという意味です。
中医用語では有神、無神といいます。
無神はただ単に、眠っているとか気を失っているという事ではなく、昏睡状態に近い場合で生命自体が危険な状態です。
意識は大脳の働きですが、中医学では心の一部です。
つまり心に神がすんでいるのです。
心は神の住み家です。
もし家がしっかりしていると、神は安心して家にいます。
しかし、恐怖とか強いストレスをうけると、心は揺さぶられます。
中にすんでいる神は、びっくりして家から飛び出します。
この時に、何事もなければ、やがて神は心にもどります。
しかし、体内に色々な汚れ(邪気)があると、神が心に戻る前に、空き家になった心に入り込み住み着いてしまいます。
このような状態になると神は戻る場所を失ってしまい、あっちをウロウロ、こっちをウロウロとさまよい続けます。
このような時は、養神薬や安神薬だけでは不足で、心を占領している邪気をとりはらう事が大切です。

192.陽気について

陽気とは、体を暖める気です。
陽気が作られる場所は、腎と脾と考えられます。
食べたものは、脾で消化されて、栄養物質を腎に運びます。
腎はその栄養を燃やして熱をつくっています。
この関係は、竈と鍋に例えられます。
竈に火が無いと、鍋は煮えません。
鍋が煮えないと消化出来ません。
つまり腎陽が上にのぼり、脾陽となり消化をおこないます。
脾で消化された精微物質が腎に運ばれ燃料となります。
これを繰り返す事で生命の陽気が保たれていると考えられます。
この事から考えると、脾陽が不足の場合は腎陽を補う必要があります。
腎陽を補う場合は、燃料の供給、つまり脾の働きを良くする必要があります。
ですので、陽気を補う場合は、この関係をよくよく考えて漢方薬を使っていく事が大切です。

191.自律神経2

自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」に分かれます。
さらに細かく分かれるのですが、中医学的にはそこまで細かく分けて考える必要はありません。
人間も動物です。
餌を食べるためには、狩りに出るとか、畑仕事をするとか、活動しないと行けません。
この時に働くのが交感神経です。
精神的にはやや緊張状態になります。
活動にむいた状態を作りだします。
その分、胃腸の働きは少しお休み状態になります。
興奮してばくばく食べる人もありますが、一般的には交感神経が働くと食欲はなくなります。
悩みがあっても同じです。
副交感神経は、獲物を食べ終わって、お腹が一杯になった状態の時に働きます。
精神的にはゆったりとして、眠くなります。
脳に行く血流は少なくなって、その分は胃腸に血液を集中させて消化を助けます。
「食てすぐ寝ると牛になる」などと言う人がありますが、そんな事はありません。
勿論、食事の時間が夜遅いと太りやすいという事はあります。
ただ、食後はあまり運動しないでくつろぐ事が大切です。
さて、中医学にあてはめると、交感神経は肝、副交感神経は脾に属します。
脾については、前にお話ししたので、今回は省略します。
交感神経は肝の気、肝気と考えます。
肝気は働きすぎると、つまって流れが悪くなります。
また働きが弱すぎると流れなくなります。
どっちにしても流れなくなります。
肝気がスムースに流れなくなると、不足した場合は「とにかくやる気がしない」など鬱の状態になります。
流れが強くなりすぎると、イライラ、カッカとして、癇癪をおこします。
ですから、肝気の強さは適当で、スムースに流れる事が大切なのです。

190.自律神経1

中医学の気の働きは、現代医学の自律神経も含まれています。
自律神経失調症という言葉はよく出て来ますよね。
なんとなく体が不調な、「あれ」です。
ただ、意外と正しく理解されていないケースもあるようです。
神経には、体から中枢(脳)に伝わる上行神経と、中枢から体に向かう下行神経があります。
上行神経は知覚神経です。
下行神経は、運動神経と自律神経に分けられます。
運動神経は、さらに脳から筋肉に行く錐体路と、脳核や小脳などから筋肉に行く錐体外路に分けられます。
錐体路は自分の考えで筋肉を動かしています。
これに対して錐体外路は無意識で筋肉の調整をしている部分です。
この錐体外路系の障害があると、手足の震えや、運動障害がおこります。
この状態を中医学では「肝風内動」といいます。
肝風内動については、また別な項目をつくって詳しく説明したいと思っています。
さて、下行神経のうちの一つ、自律神経です。
これは、脳の下の部分の視床下部という所が中枢部です。
ですから、視床下部が自律神経をコントロールしているのです。
視床下部は、自律神経以外にも脳下垂体をコントロールしています。
脳下垂体は、全身のホルモンをコントロールしています。
....なかなか複雑ですね。
ですから、視床下部はとても忙しいのです。
大昔、平和な時代なら、ストレスも少なくて、視床下部の仕事も少なかったでしょう。
でも、今みたいなストレスフルの時代になると、視床下部君は、本当に年中無休でヘトヘトです。(~_~;)
さて、次回は自律神経をもう少し詳しくみていきましょう。

189.肝

肝臓というと、現代医学では代謝の中心センターみたいなものです。
いろいろな毒素が分解されたり、体に必要なものが合成されたり。
でも、中医学の肝の働きとしてはこういった毒素を分解する働きとか、体に必要なものを合成するという事は考えられていません。
こういった働きは、原則としては脾の働きと考えます。
では、中医学の肝とはいったいどんな事をしているのでしょうか?
肝の働きを一言で言えば「気の流れを調整している」という事です。
あともう一つは「あまった血を貯蔵している」。
まず気の流れを理解するには、気というものを理解する必要があります。
気って、わかる気がするけども、解らない気もする。
実は中医学の中でも一番難しい。
何故なら目に見えないし、色々な種類があるし、人によっても言う事が違ったりします。
中医学の古典から気の部分だけを抜き出していくと、おそらく百科事典くらいの本になってしまうでしょう。
しかし、この「気」という概念があるからこそ、中医学は今でも現代医学よりも優れている部分が多くあるのです。
次回は、ちょっとだけ気の話をして、また肝に戻って来ましょう。

188.虚実からみた健脾と消導

胃腸を丈夫にする健脾と、食べたものを消化する消導。
臨床的にはこの2つは明確に区別するのは難しい事が多いのです。
ただ、中医学(中国の漢方)の理論では明確に区別されます。
その違いを一言で言えば、虚実の違いです。
中医学では虚とは、体に必要な物やエネルギーが足りない事。つまり正気の不足。
実とは体にとって必要ない、あるいは毒になるものが多い。つまり邪気が実している。
虚は補い、実は余分なものを取る治療が必要です。
健脾は脾の気を補う方法。消導は、胃腸の実をとる方法となります。
虚と実では、天と地くらいの違いがあるのですが、また虚が原因で実が出来たり、実が原因で虚になったりと、お互いに深い関係もあります。
つまり、胃腸が弱いから食滞がたまり、食滞があると胃腸が悪くなる。
鶏と卵の関係に似ています。
このあたりが中医学の面白さです。
さて、この虚実ですが、日本式の漢方だと、全然違う意味になってしまいます。
虚証とは体力がなく、疲れやすい、やせ気味の人です。
実証とは、体力があり、疲れにくく、体もがっちりとした人です。
私が漢方を勉強し始めた頃はまだ中医学が日本では殆どなくて、みな日本漢方を勉強していました。
そしていつも不思議におもったのは、虚証の人は病気しやすいでしょうけども、実証の人はあまり病気にならないのでは?という事です。
体力はあるし、疲れにくい、体もしっかりした人が、そんなに簡単に病気になるのかな?、という疑問がありました。
そうなら虚証の人向きの漢方薬の方が実証向きの人の漢方よりも多いはずです。
しかし、実際はほぼ半分くらいです。
その点、中医学の方が、実は余分なものがある状態、そして虚は必要なものが足りないという理論は明確です。
そして、多くの場合、一人の人間に虚と実が同時に存在します。
日本式の場合は実証の人は虚証ではないし、虚証の人は実証ではあり得ません。
ですから、虚証向きの処方を実証の人が飲む事は無いし、ましてその2つを併用する事などあり得ません。
しかし、中医学では虚と実を同時に治療する事が多くなります。
中医学に出会って、初めて、日本漢方における虚実の矛盾が払拭されました。
脾についてはここまでとして、次回からは気と肝について考えてみたいと思います。

187.食滞 しょくたい

食滞というのは、文字通り食べたものが滞る状態。
では、何故食滞がおこるかというと、消化能力以上のものを食べた場合に食滞がおこります。
当たり前の話ですが、実はそんなに単純にいかないのです。
消化能力といっても、個人差があります。季節差もあります。時間の差もあります。気温、疲れ具合、体調によっても左右されます。
また、食べる種類によっても差があります。
ある人は甘い物の消化力はつよくても、お酒は駄目。
ある人はお酒は得意でも、生ものは駄目とか。
日頃から、自分の消化能力を把握しておく事が食滞を防ぐ一番の方法です。
温度について言えば、脂物は胃腸の温度が下がると吸収が悪くなります。
ですから脂っこいものを食べる時は冷たいものは気をつけます。
そうは言ってもビールと焼き肉、美味しいですよね。
その場合はビールを口の中で温めるように、ちびちびと飲むと良いでしょう。
えっ、せこい飲み方? 健康の為ですから、そのぐらい我慢して下さいね。
タンパク質は生ですと消化が悪く、長く煮込むと消化がよくなります。
ですから胃腸が弱い人は刺身などよりシチューのようなものが適しています。
では、体質的に消化能力が低い人はどうすれば良いでしょうか?
一つは、健脾の漢方薬を続け、胃腸を強化する方法です。
これは、速効性はありませんが、根本治療に近い、とても良い方法です。
また、消導薬は、服用すれば一時的に消化能力がUPします。
ちょっとヤバイかなという場合とか、風邪などで消化能力が落ちている場合に消導薬を利用するのはお勧めです。
食滞がたまってくると、お腹が張る、口がまずい、口臭、げっぷ、ガスなどがおこります。
また、舌の苔が厚くなってきます。
宿便なども食滞の一部です。
消導薬と健脾薬を上手に使って、食滞にならないように注意しましょう。

186.消導薬

健脾と消導の区別が訳が解らなくなって来ましたね。
食後はだれでも胃がふくれます。
これがある時間たつと、また平らになります。
平らにならないポッコリお腹の人は別です。(~_~;)
これは、食べたものが消えて、下に導かれたためです。
この作用が「消導」です。
消導は脾の働きの一部です。
ですで、健脾薬があれば消導薬は消導薬は要らないのではと思われます。
しかし、中医学では健脾薬と消導薬は使い分けています。
体質的に胃腸が弱く、常々食欲がない、やせて体力が無い。
このような体質の人は脾虚といいます。
このような場合は、消導薬でなくて健脾薬を使います。
健脾薬は胃腸を丈夫にする働きがありますが、消導薬は一時的に消化を助けますが、胃腸を丈夫にする働きはありません。
食べ過ぎ、飲み過ぎで胃が苦しい...こんな時は消導薬の出番になります。
あまり胃腸の弱い人で少し食べても胃がもたれる。
このような場合は胃腸を丈夫にする健脾薬と消化を助ける消導薬を同時につかいます。
消導薬の代表は山査子、神麹、麦芽、蒼朮などです。
これらのものには酵素が沢山ふくまれて、食べたものを分解しやすくします。
また、胃液や胆汁、膵液などの分泌をよくしたり、胃腸の蠕動運動を活発にします。
ただし消導薬の作用は一時的で、続けて飲んでいて胃腸が丈夫になるという事はあまりありません。
ですので、胃腸が弱い場合は健脾と消導をうまく使い分ける事が必要です。
単なる暴飲暴食の場合は消導だけで健脾は必要ありません。
さて、次回は、消導薬とは切っても切れない、食滞についてお話しします。

185.健脾薬

脾の働きを良くする事を健脾と言い、その作用を持つ漢方薬を健脾薬と言います。
健脾薬の代表は、人参、白朮、茯苓などです。
人参はいわゆる朝鮮人参で、野菜の人参ではありません。
野菜の人参で胃腸が丈夫になるなら、とっても安上がりで良いのですが。
人参は昔から高価な薬の代表でした。
今でも野生の人参はなかなか採れないため、とても高価です。
また人参は生長がとても遅いので、薬になるまで何年もかかります。
何十年ものの野生の人参は起死回生の効果があるとして、今でもびっくりするくりい高価で取引されています。
こんなものはとても飲めないですが、栽培のもので500gで1万円から2万円くらいのものでも充分に健脾の高価が期待出来ます。
使うのは2gからせいぜい5gくらいですから、1日分としてはそんなに高くはありません。
さて、先ほどの人参、白朮、茯苓とさらに甘草を加えたものが四君子湯です。
四君子湯は健脾薬の基本処方です。
ただ、胃腸を丈夫にする事と、消化を助ける事は、中医学では少し別に考える事があります。
この場合、胃腸を丈夫にするのは「健脾」で、消化を助けるのが「消導」といいます。
先ほどの健脾薬の代表方剤、四君子湯。これは健脾の力はあっても消導の力はあまりありません。
さてさて、少し混乱してきましたね。
次回で、もう少し詳しくお話しいたします。

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