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191.自律神経2

自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」に分かれます。
さらに細かく分かれるのですが、中医学的にはそこまで細かく分けて考える必要はありません。
人間も動物です。
餌を食べるためには、狩りに出るとか、畑仕事をするとか、活動しないと行けません。
この時に働くのが交感神経です。
精神的にはやや緊張状態になります。
活動にむいた状態を作りだします。
その分、胃腸の働きは少しお休み状態になります。
興奮してばくばく食べる人もありますが、一般的には交感神経が働くと食欲はなくなります。
悩みがあっても同じです。
副交感神経は、獲物を食べ終わって、お腹が一杯になった状態の時に働きます。
精神的にはゆったりとして、眠くなります。
脳に行く血流は少なくなって、その分は胃腸に血液を集中させて消化を助けます。
「食てすぐ寝ると牛になる」などと言う人がありますが、そんな事はありません。
勿論、食事の時間が夜遅いと太りやすいという事はあります。
ただ、食後はあまり運動しないでくつろぐ事が大切です。
さて、中医学にあてはめると、交感神経は肝、副交感神経は脾に属します。
脾については、前にお話ししたので、今回は省略します。
交感神経は肝の気、肝気と考えます。
肝気は働きすぎると、つまって流れが悪くなります。
また働きが弱すぎると流れなくなります。
どっちにしても流れなくなります。
肝気がスムースに流れなくなると、不足した場合は「とにかくやる気がしない」など鬱の状態になります。
流れが強くなりすぎると、イライラ、カッカとして、癇癪をおこします。
ですから、肝気の強さは適当で、スムースに流れる事が大切なのです。

190.自律神経1

中医学の気の働きは、現代医学の自律神経も含まれています。
自律神経失調症という言葉はよく出て来ますよね。
なんとなく体が不調な、「あれ」です。
ただ、意外と正しく理解されていないケースもあるようです。
神経には、体から中枢(脳)に伝わる上行神経と、中枢から体に向かう下行神経があります。
上行神経は知覚神経です。
下行神経は、運動神経と自律神経に分けられます。
運動神経は、さらに脳から筋肉に行く錐体路と、脳核や小脳などから筋肉に行く錐体外路に分けられます。
錐体路は自分の考えで筋肉を動かしています。
これに対して錐体外路は無意識で筋肉の調整をしている部分です。
この錐体外路系の障害があると、手足の震えや、運動障害がおこります。
この状態を中医学では「肝風内動」といいます。
肝風内動については、また別な項目をつくって詳しく説明したいと思っています。
さて、下行神経のうちの一つ、自律神経です。
これは、脳の下の部分の視床下部という所が中枢部です。
ですから、視床下部が自律神経をコントロールしているのです。
視床下部は、自律神経以外にも脳下垂体をコントロールしています。
脳下垂体は、全身のホルモンをコントロールしています。
....なかなか複雑ですね。
ですから、視床下部はとても忙しいのです。
大昔、平和な時代なら、ストレスも少なくて、視床下部の仕事も少なかったでしょう。
でも、今みたいなストレスフルの時代になると、視床下部君は、本当に年中無休でヘトヘトです。(~_~;)
さて、次回は自律神経をもう少し詳しくみていきましょう。

189.肝

肝臓というと、現代医学では代謝の中心センターみたいなものです。
いろいろな毒素が分解されたり、体に必要なものが合成されたり。
でも、中医学の肝の働きとしてはこういった毒素を分解する働きとか、体に必要なものを合成するという事は考えられていません。
こういった働きは、原則としては脾の働きと考えます。
では、中医学の肝とはいったいどんな事をしているのでしょうか?
肝の働きを一言で言えば「気の流れを調整している」という事です。
あともう一つは「あまった血を貯蔵している」。
まず気の流れを理解するには、気というものを理解する必要があります。
気って、わかる気がするけども、解らない気もする。
実は中医学の中でも一番難しい。
何故なら目に見えないし、色々な種類があるし、人によっても言う事が違ったりします。
中医学の古典から気の部分だけを抜き出していくと、おそらく百科事典くらいの本になってしまうでしょう。
しかし、この「気」という概念があるからこそ、中医学は今でも現代医学よりも優れている部分が多くあるのです。
次回は、ちょっとだけ気の話をして、また肝に戻って来ましょう。

188.虚実からみた健脾と消導

胃腸を丈夫にする健脾と、食べたものを消化する消導。
臨床的にはこの2つは明確に区別するのは難しい事が多いのです。
ただ、中医学(中国の漢方)の理論では明確に区別されます。
その違いを一言で言えば、虚実の違いです。
中医学では虚とは、体に必要な物やエネルギーが足りない事。つまり正気の不足。
実とは体にとって必要ない、あるいは毒になるものが多い。つまり邪気が実している。
虚は補い、実は余分なものを取る治療が必要です。
健脾は脾の気を補う方法。消導は、胃腸の実をとる方法となります。
虚と実では、天と地くらいの違いがあるのですが、また虚が原因で実が出来たり、実が原因で虚になったりと、お互いに深い関係もあります。
つまり、胃腸が弱いから食滞がたまり、食滞があると胃腸が悪くなる。
鶏と卵の関係に似ています。
このあたりが中医学の面白さです。
さて、この虚実ですが、日本式の漢方だと、全然違う意味になってしまいます。
虚証とは体力がなく、疲れやすい、やせ気味の人です。
実証とは、体力があり、疲れにくく、体もがっちりとした人です。
私が漢方を勉強し始めた頃はまだ中医学が日本では殆どなくて、みな日本漢方を勉強していました。
そしていつも不思議におもったのは、虚証の人は病気しやすいでしょうけども、実証の人はあまり病気にならないのでは?という事です。
体力はあるし、疲れにくい、体もしっかりした人が、そんなに簡単に病気になるのかな?、という疑問がありました。
そうなら虚証の人向きの漢方薬の方が実証向きの人の漢方よりも多いはずです。
しかし、実際はほぼ半分くらいです。
その点、中医学の方が、実は余分なものがある状態、そして虚は必要なものが足りないという理論は明確です。
そして、多くの場合、一人の人間に虚と実が同時に存在します。
日本式の場合は実証の人は虚証ではないし、虚証の人は実証ではあり得ません。
ですから、虚証向きの処方を実証の人が飲む事は無いし、ましてその2つを併用する事などあり得ません。
しかし、中医学では虚と実を同時に治療する事が多くなります。
中医学に出会って、初めて、日本漢方における虚実の矛盾が払拭されました。
脾についてはここまでとして、次回からは気と肝について考えてみたいと思います。

187.食滞 しょくたい

食滞というのは、文字通り食べたものが滞る状態。
では、何故食滞がおこるかというと、消化能力以上のものを食べた場合に食滞がおこります。
当たり前の話ですが、実はそんなに単純にいかないのです。
消化能力といっても、個人差があります。季節差もあります。時間の差もあります。気温、疲れ具合、体調によっても左右されます。
また、食べる種類によっても差があります。
ある人は甘い物の消化力はつよくても、お酒は駄目。
ある人はお酒は得意でも、生ものは駄目とか。
日頃から、自分の消化能力を把握しておく事が食滞を防ぐ一番の方法です。
温度について言えば、脂物は胃腸の温度が下がると吸収が悪くなります。
ですから脂っこいものを食べる時は冷たいものは気をつけます。
そうは言ってもビールと焼き肉、美味しいですよね。
その場合はビールを口の中で温めるように、ちびちびと飲むと良いでしょう。
えっ、せこい飲み方? 健康の為ですから、そのぐらい我慢して下さいね。
タンパク質は生ですと消化が悪く、長く煮込むと消化がよくなります。
ですから胃腸が弱い人は刺身などよりシチューのようなものが適しています。
では、体質的に消化能力が低い人はどうすれば良いでしょうか?
一つは、健脾の漢方薬を続け、胃腸を強化する方法です。
これは、速効性はありませんが、根本治療に近い、とても良い方法です。
また、消導薬は、服用すれば一時的に消化能力がUPします。
ちょっとヤバイかなという場合とか、風邪などで消化能力が落ちている場合に消導薬を利用するのはお勧めです。
食滞がたまってくると、お腹が張る、口がまずい、口臭、げっぷ、ガスなどがおこります。
また、舌の苔が厚くなってきます。
宿便なども食滞の一部です。
消導薬と健脾薬を上手に使って、食滞にならないように注意しましょう。

186.消導薬

健脾と消導の区別が訳が解らなくなって来ましたね。
食後はだれでも胃がふくれます。
これがある時間たつと、また平らになります。
平らにならないポッコリお腹の人は別です。(~_~;)
これは、食べたものが消えて、下に導かれたためです。
この作用が「消導」です。
消導は脾の働きの一部です。
ですで、健脾薬があれば消導薬は消導薬は要らないのではと思われます。
しかし、中医学では健脾薬と消導薬は使い分けています。
体質的に胃腸が弱く、常々食欲がない、やせて体力が無い。
このような体質の人は脾虚といいます。
このような場合は、消導薬でなくて健脾薬を使います。
健脾薬は胃腸を丈夫にする働きがありますが、消導薬は一時的に消化を助けますが、胃腸を丈夫にする働きはありません。
食べ過ぎ、飲み過ぎで胃が苦しい...こんな時は消導薬の出番になります。
あまり胃腸の弱い人で少し食べても胃がもたれる。
このような場合は胃腸を丈夫にする健脾薬と消化を助ける消導薬を同時につかいます。
消導薬の代表は山査子、神麹、麦芽、蒼朮などです。
これらのものには酵素が沢山ふくまれて、食べたものを分解しやすくします。
また、胃液や胆汁、膵液などの分泌をよくしたり、胃腸の蠕動運動を活発にします。
ただし消導薬の作用は一時的で、続けて飲んでいて胃腸が丈夫になるという事はあまりありません。
ですので、胃腸が弱い場合は健脾と消導をうまく使い分ける事が必要です。
単なる暴飲暴食の場合は消導だけで健脾は必要ありません。
さて、次回は、消導薬とは切っても切れない、食滞についてお話しします。

185.健脾薬

脾の働きを良くする事を健脾と言い、その作用を持つ漢方薬を健脾薬と言います。
健脾薬の代表は、人参、白朮、茯苓などです。
人参はいわゆる朝鮮人参で、野菜の人参ではありません。
野菜の人参で胃腸が丈夫になるなら、とっても安上がりで良いのですが。
人参は昔から高価な薬の代表でした。
今でも野生の人参はなかなか採れないため、とても高価です。
また人参は生長がとても遅いので、薬になるまで何年もかかります。
何十年ものの野生の人参は起死回生の効果があるとして、今でもびっくりするくりい高価で取引されています。
こんなものはとても飲めないですが、栽培のもので500gで1万円から2万円くらいのものでも充分に健脾の高価が期待出来ます。
使うのは2gからせいぜい5gくらいですから、1日分としてはそんなに高くはありません。
さて、先ほどの人参、白朮、茯苓とさらに甘草を加えたものが四君子湯です。
四君子湯は健脾薬の基本処方です。
ただ、胃腸を丈夫にする事と、消化を助ける事は、中医学では少し別に考える事があります。
この場合、胃腸を丈夫にするのは「健脾」で、消化を助けるのが「消導」といいます。
先ほどの健脾薬の代表方剤、四君子湯。これは健脾の力はあっても消導の力はあまりありません。
さてさて、少し混乱してきましたね。
次回で、もう少し詳しくお話しいたします。

184.脾の働き

脾、というと「脾臓」。
脾臓って何処だっけ?何の働き?っていう方も多いのでは。
現代医学の脾臓は、リンパ球を成熟させたり、いらなくなった血液を壊す働きといわれています。
貧血がひどい場合は脾臓を摘出したりしますから、無くなっても命にかかわる事はありません。
これに対して東洋医学、つまり中医学での脾臓は、なくなったらとても生きていられません。
中医学では脾臓は胃腸の消化吸収の機能を代表した臓器です。
じゃあ、胃腸なの?というと、そうでもありません。
難しいですね。
例えば膵臓。ここからは膵液が出て、色々なものの消化や吸収を助けます。
肝臓からは胆汁が出て、脂の吸収を助けます。
こんなものも脾臓の一部と考えます。
勿論、小腸などの吸収する力は脾臓の一部です。
私なりに解説すると、脾とは「食べたものを吸収して体に必要なものに変化させ、必要な場所に運ぶ機能を有するとされる架空の臓器」という事になります。
架空なので、全く実体が無いかというと、そうでもなくて、先ほど述べたような膵臓とか、肝臓の一部とか、小腸とか...
あまり難しく考えないで、なんとなく漠然と理解するのが中医学をマスターするこつです。

183.六味丸

六味地黄丸は補腎陰薬に分類されています。
ただ、純粋な補腎薬ではありません。
非常に巧妙につくられています。
まず三補、三泻といって、補うものが3つ、汚れを綺麗にするものが3つ配合されています。
補うものは地黄、山薬、山茱萸です。
それぞれ腎、脾、肝の陰を養う働きがあります。
汚れを綺麗にする部分としては、
沢瀉、牡丹皮、茯苓が配合されています。
沢瀉は腎の中の余分な水、牡丹皮は肝の淤血、茯苓は脾の中の水の流れを改善します。
カテゴリー: 中医学

182.落ちている気を持ち上げる

体も引力の影響を受けます。
ですので、気がいろいろなものを持ち上げていないと、みな下に降りてしまいます。
気のこのような持ち上げる力を「昇提作用 しょうていさよう」と言います。
例えば、胃下垂、脱肛、游走腎などの内臓の下垂をはじめ、呼吸困難、人事不省なども気が上がらないためです。
軽いものではめまいや眠気などがあります。
気の昇提作用を助ける作用の生薬は沢山あります。
発散させる作用のあるのは殆ど上に昇る性質があります。
また花を部位とする生薬は旋覆花を除いて皆上に昇ると言われています。
こうしたものを補気薬と組み合わせルと益気昇提作用の処方が出来上がります。
よく使われるものは、黄耆、人参、白朮などの補気薬に、柴胡、升麻、桔梗、荊芥などをあわせます。
代表方剤は補中益気湯や升陥湯です。
升陥湯は日本では使われませんが、中国では常用処方の一つです。

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