目次形式に切り替える181.胆は決断力
胆は、西洋医学では胆嚢で、胆汁を入れる袋です。
手術でとってしまっても、そう大きな問題はありません。
しかし、中医学ではとても大切な役割をしていると考えます。
大胆という言葉が示すように、大胆な人は決断力があります。
つまり胆は決断力と関係しているのです。
肝っ玉という言葉があります。
肝臓にくっついている玉、つまり胆嚢を指すと思われます。
肝っ玉が大きいとう事は大胆と同じです。
これに反して肝っ玉が小さい場合は、絶えず不安になります。
温胆湯は痰湿をとる作用として有名ですが、もともとは肝っ玉を大きくする為に考えられたものです。
痰湿が胆にたまると、小さい音に驚き、絶えずびくびくします。
ちょっとした事で肝を冷やす事になります。
痰湿をとる事で肝っ玉が冷えなくなるという事で温胆湯と名付けられました。
180.脾は運化を司る
中医学の用語で、脾は運化を司るとあります。
この運化とは何を意味しているのでしょうか?
運ははこぶ、化は変化させる作用です。
現代医学的に言えば、運は食べたものを吸収する作用です。
胃に蓄えられた食物は、膵臓からの消化酵素や胆汁などと一緒に小腸から吸収され肝臓に運ばれます。
このあたりまでが運という作用になります。
そこから先が化です。
化は新陳代謝を意味します。
肝臓の代謝機能、細胞での代謝などは化の部分になります。
脾の病気を考える時、運についてはよく考えますが、化の部分はあまり注意が払われないという事があります。
例えば、食欲が無いとか、消化しないとか、下痢をするなどは脾の運に問題があるとすぐに解ります。
しかし、代謝が落ちているとか、疲れやすいなどの場合は脾の化に問題があります。
運に問題がなく化に問題がある場合、脾との関連性に気がつかない事も多くあります。
脾の化の作用を強めるのはやはり人参が1番でしょう。
これに対して茯苓、白朮は運に対しての効果になります。
処方で言えば、四君子湯はやや運に、人参湯はやや化に重点をおいた処方です。
運と化の違いを考えると、この違いがよく理解出来ます。
179.強人傷寒発其汗、虚人傷寒建其中
強人とは、体力のある人です。
日本漢方で言う実証のような体質の人です。
そのような人は、風邪やインフルエンザなどに傷寒にかかった時は、麻黄湯とか葛根湯なとで発汗すると治ります。
ただ、発汗にはある程度の体力が必要です。
ですから、体力の無い人に無理に発汗してしまうと、体力を消耗してしまいます。
このような事から、虚人、つまり体力の無い人は、建中、つまり胃腸を調えるという方法を優先されましょうと言う意味です。
虚証の人に発汗剤が使えないという事ではありません。
あまり強い発汗薬ではなく、また同時に健脾も考えましょうという意味です。
このような事で生まれた処方が参蘇飲です。
178.治身、太上養神、其次養形。
准南子の言葉です。
形というのは、肉体を意味しています。
神は精神です。
病気を治療するのは、まず精神を養う事が1番大切で、身体を治療するのはその次であるの意味です。
精神的な部分がしっかりしていないと、いくら良い治療をしても効果が出にくいという事です。
ストレスの多い現代社会において、とても名言だと思います。
177.昼発熱者従、昼発寒者逆
1日の中で陰陽の状態は変化しています。
これに従って、体内の陰陽もまた変化しています。
朝から夕方までは、陽気が、衰 → 盛 → 衰 という過程をとります。
また夕方から明け方までは、陰気が 衰 → 盛 → 衰 という過程になります。
人間の体もこれにあわせて変化します。
ですので、昼の陽気の多い時期に、発熱するのは「従 (順)」であり、陽気の多い時期に冷えるのは「逆」になります。
一般に、順よりも逆の方が病気が重いと考えます。
176.陰陽二字、固以対待而言、所指無定所
意味としては、「陰陽という事柄を意味する2文字は、もとより比べてみて言えることで、決まった物を指すわけではない」となります。
元の時代の朱震亨という人が述べたものです。
中医学を学んだ人は、よく血は陰で、気は陽といいます。
また低温期は陰で、高温期は陽といいます。
しかし、絶対的な陰と陽は存在しません。
2つのものを比較して始めて、どちらかが陰、どちらがが陽となります。
175.上善若水、下愚如火
脈診について一段落しましたので、今日から中医の名言についていくつか解説しようと思います。
第1回目は「上善若水、下愚如火」です。
中医の養生について述べたもので、養神(こころを養う)事の大切さを述べています。
養神のキーポイントは「静」にあります。
心を水のように静かに落ち着かせる事が養生として大切で、火ようにいつも怒っていてはなかなか養神は出来ないという事です。
素問では、「人静则神气内藏,含蓄不露;躁动无度则神气消亡」
「人間は静かなら神気を内蔵して外には見えない、騒がしいと神気は消耗して身体や命を損じる」と述べています。
理屈はとてもよくわかりますが、実際にはなかなか難しい事ですね。
174.脈の部位
さて、ここまで主に脈の形状について説明して来ましたので、これから脈の部位について説明します。
古代の脈診は手首の脈だけでなく、足首の脈や首の脈など様々な部位で脈診をしました。
しかし、それでは診察がとても大変です。
最近は手首の脈の部位を「寸、関、尺」と分けて、それぞれ上半身(上焦)、まん中(中焦)、下半身(下焦)とします。
左右により、次のような対応になります。
左 寸 心
左 関 肝
左 尺 腎(子宮)
右 寸 肺
右 関 脾
右 尺 命門(卵巣)
このようになります。
よく見ると、左は血に関係する臓、右は気に関係する臓になっています。
例えば、右の寸脈が弱い場合は、肺気虚の事が多く、風邪をひきやすい、息切れがしやすいなどがあります。
右の寸脈が異常に強い場合は、肺に痰濁がたまっている事が考えられます。
この場合は、喘促、呼吸困難などがあります。
右の関脈が弱い場合は、脾気虚で、胃腸が弱く、食べても太らないとか、下痢しやすいなどがあります。
胃の手術をしたような場合も右の関脈がとても弱くなる事があります。
右の関脈が強すぎる場合は食滞で、食べ過ぎ、飲み過ぎの事が多いようです。便秘の場合もあります。
右の尺脉が弱い場合は腎陽虚で、冷えやすい体質の事が多くあります。
左の寸脈が弱い場合は、心の気虚や血虚で、動悸、めまい、たちくらみ、不安感などが出やすいです。
左の寸脈が強すぎる場合は、心に邪気が多い状態で、のぼせ、イライラ、不眠、鼻血、高血圧などがあります。
左の関脈が弱い場合は、肝気虚か肝血不足です。
逆に左の関脈が強すぎる場合は、肝火とか肝鬱です。
肝鬱の場合は弦脈になりやすく、肝火は洪脈か滑脈になりやすいです。
左の尺脉が弱い場合は、腎陰虚が多くみられます。
また左の尺脉が強すぎる場合は、腎や膀胱に水邪などがたまっている場合にあります。
排尿困難や排尿痛、むくみなどがおこりやすくなります。
昔、今のようにCTだのエコーだのが無い場合、脈は重要な手がかりとなりました。
ただ、脈はある程度の目安で、脈だけで断定する事は出ません。
かならず他の症状と照らし合わせて考える事が大切です。
脈診は非科学的なものではありません。
非常に多くの患者さんの統計と考えてください。
173.短脈
短脈は長脈の反対で、指の幅1本くらいの短い脈です。
短脈は、気に問題があるとされる脈で、力がある場合は気滞、力が無い場合は気虚を意味します。
また、短脈で滑脈がみられる場合は、胆気虚で痰湿がたまっている場合によくみられます。
172.長脈
脈は、通常では指の横幅3本分の長さです。
これより長い脈を長脈と言います。
長脈は気血が充実している場合です。
健康な人に長脈がみられるのは良い状態です。
ただ、体内に熱がこもっているような場合にも長脈はよくみられます。
このような場合は交感神経が興奮している事が多く、イライラしたり、不眠になったりします。
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