目次形式に切り替える441.肝は脾との関係だけでない
五行の相克で一番良く使われるのは木克土だ。
肝が強くなると土が弱るという図式だ。
肝は自律神経のようなもので特に交感神経に近い。
ストレスなどで交感神経が興奮すると胃腸の働きが悪くなり、食欲がなくなる。
これが肝脾不和と良い、木克土で説明している。
確かに、交感神経を肝、副交感神経を腎とすればこの関係は成り立つかもれない。
しかし、交感神経が興奮すると影響は胃腸だけでない。
心臓がドキドキして不眠になる。これは心に影響したのだ。
また、呼吸が浅くなったり、過呼吸になる。胸がつまる感じで呼吸がしづらくなる。
これは肝が肺をいじめているのだ。
ストレスが長く続くと肝火上炎になり、肝血や肝水の不足になる。
不足した分を補うように腎から腎陰を吸い上げる。
これは肝が腎をいじめているのだ。
そうすると、肝はすべての臓をいじめる性質がある。
これを「肝は五臓の賊である」と言っている。
このように肝の相克は脾だけでなく、すべての臓と相克関係にあると考えられる。
440.肝の陰について
肝陰について考えると、実は2種類に分けられる。
一つは肝血。そしてもう一つは肝血以外の肝陰。
この肝血以外の肝陰は名前が無い。
そこで、ここでは「肝水」という名前をつけたい。
肝血を補う薬と肝水を補う薬は明確に違う。
肝血を補う薬は沢山あるが、肝水を補うものは少ない。
例えば枸杞子、女貞子、旱蓮草などだ。
枸杞子は肝水だけでなく肝血も補う作用があるし、女貞子と旱蓮草は肝水だけでなく腎陰も補う。
肝水は肝血や腎陰と相互に補いあっているのだ。
必要に応じて肝水は肝血や腎陰に変化するのだ。
肝血も肝水になり、さらに腎陰になる事が出来る。
だから腎陰を補う時に肝血を補う方法もあるのだ。
五行の図を見ると腎から肝へ向かうルートはあるが肝から腎に向かうルートは無い。
しかし、腎陰虚の時に肝血や肝水を補う方法もあるのだ。
これを中医学では肝腎同源と言っている。
腎から肝に向かう矢印は→ではなく⇔にするへきなのだ。
439.黄帝内経の哲学的思想 陰と陽
黄帝内経は、体の内部の状態、生理的働き、病理、養生などを観察して、哲学的な理論で説明している。
この中で、陰陽の思想がある。
究極的に言えば陰は目に見えるもの、陽は目に見えないもの。
ロウソクは陰だが炎は陽だ。
ロウソクが燃えると炎が出来、最後にはロウソクは燃え尽きてなくなる。
これは陰が陽に転化したと考えられる。
ちょっと相対性理論の質量とエネルギーの関係にも似ている。
冷たいコップのまわりに水滴がつく。
これは水蒸気という目に見えない気が、冷やされて結露し目に見える水に転化した。
陽が陰に転化したのだ。
438.中医学と哲学
中医学の理論の基礎になっているのが黄帝内経。
黄帝内経は科学がまだ未発達の時代に体の内部の働きを観察して哲学的な理論を作った。
当てはまっている部分が非常に多いのだが、ちょっと強引な部分もある。
中国の古典哲学に五行説というのがあり、色々なものは木、火、土、金、水のどれかの性質を持つというものだ。
そして自然界の色々なものを五行に当てはめた。
人間の臓腑も五行に当てはめている。
実はこれはかなり強引で、実情にあわない部分も多い。
だから五行に関しては、全面的に正しいと思わない事が大切だ。
さらに黄帝内経には五運六気という理論も盛り込まれている。
これは今の四柱推命に似ている。
確かに気候には周期性があるのは解るが、それが60年周期とは思わない。
今の中医学の世界では、五運六気を治療に取り入れている治療家は少ないし、それで良いと思っている。
中医学が正しい方向に発展するためには、あまり迷信的な理論は使わないようにする方が良いと思う。
437.西洋医学と中医学の違い
西洋医学と中医学の違いはいくつもあります。
その中の一つとして、病気が先か薬が先かという問題があります。
西洋医学の場合、病気がおこる原因を探します。
そしてその原因が見つかると、それに効く薬を探します。
抗生物質のように自然界から探す場合もあれば、合成して作る場合もあります。
最近はバイオの技術を使い、さまざまな薬を開発しています。
このように、病気が先で、薬は後という事になります。
中医学の世界は、そうではありません。
中医学で使うのはすべて生薬と言うもので天然物です。
人間はまず、植物や動物、鉱物など薬になりそうなものを食べてみます。
そうすると体が反応します。
体が温まるのを熱薬、少し温まるものを温薬、熱をさますものを寒薬、少しさますものを涼薬、どちらでも無いものを平薬としました。
また便が柔らかくなるもの、便が固くなるもの、汗が出るもの、汗がとまるもの、食欲が出るもの、痛みが和らぐものなど、さまざまな作用を体験して、分類していきました。
これが生薬学です。
中医学がすごいのは生薬学だけで終わらない点です。
どこの国の民間療法もだいたい生薬学で終わっています。
中医学には理論があります。
インドのアユルヴェーダとかチベット医学にも理論がありますが、理論がある民間療法は少ないでしょう。
中医学の理論は、科学的ではありません。
どちらかというと哲学的なものです。
ただ、長い年月の中で、間違っているものは正し、役に立たない理論は捨てられていきました。
今、受け継がれている理論は、確かに効果があると考えられる理論です。
科学的な理由は説明出来ないものもあります。
ただ、それが治療に役立つなら、非科学的だと言って無視するのは勿体ないと思います。
そして中医学の理論に基づいて生薬を組み合わせて病気を治療したのが方剤です。
生薬は自然界のものですが、処方は中医学の理論を駆使して作られたものです。
ですから、処方こそ中医学の精華と言えるのです。
436.成功の反対は失敗ではない。
成功の反対は失敗ではありません。
成功の反対は「何もしない」です。
何度失敗しても、チャレンジし続ければ、いつか成功する可能性があります。
しかし、何もしなけりば成功する可能性は全くありません。
好きの反対は嫌いではありません。
好きの反対は無関心。
好きも嫌いも、相手の事が気になっているからです。
嫌いに思っている人で急にもいなくなると淋しいかもしれません。
相手を気にかけているという事では好きも嫌いも同じです。
435.非科学的なもの
非科学的なものを信じるかどうか。
これは人によって随分違うと思う。
占いを信じている人。
祈祷を信じている人。
ある種の宗教を信じている人。
天国の存在を信じている人。
輪廻転生を信じている人。
霊魂を信じる人。
スピリチュアルな力を信じる人。
科学的な考えが好きな人はこれらを否定するだろう。
私はどちらかと言うと理科系思考なので、どうしてもこれらのものを全否定してしまう。
ただ、大切なのは信じる信じないは一人一人の自由であるという事。
他人に危害が及ばないなら、自分の考えを押し付けずに、その人の考え方を大切にしてあげる事が大切なのだと思う。
「これらの考えを理解し尊重はするが私自身は信じてはいない」という立場だ。
434.平均値の落とし穴
よくデータで平均値というのが使われる。
平均がいくらいくらと言われると、おおよそ皆そんな感じと思う。
しかし、平均は「実態のおおよそ」と全然違う事がある。
平均の欠点は、数値の大きい人が一人でもいると全体の平均が引きずられて大きくなってしまう事だ。
例えば、100人の給料の平均を出すのに、その中に一人、イーロン・マスク氏のような人がいたらどうなるか。
イーロン・マスク氏の給料は30兆円と言われる。マスク氏以外の人の給料が1円だったとしても平均値は一人3000億円!
こういう人がいると平均は実態からかけ離れてしまう。
そこでより実態に近いのが中央値。
少ない人から多い人に順番に並べて、真ん中の人の値を使う。
これが実際の感覚に近い。
ではなぜ、中央値ではなく平均を使うのか。
理由は平均の方が計算しやすいからだ。
平均の場合は、一人一人の値を順番に合計して、最後に人数で割れば出る。
これに対して中央値は全部のデータを保存して並べ直す必要がある。
この並べ直すという作業は、人間にとってはとても大変なのだ。
100件くらいならできなくも無いが10000件手作業となるととても大変。1日かかっても終わるかどうか。
しかし、今はコンピュータがある。10000件のデータの並べ直し(ソート)なんて一瞬で出来る。
入力の手間は同じなので、平均も中央値もコンピュータを使えば計算の手間はあまり変わらない。
なので、そろそろ平均値はやめて中央値を使うようにした方が良いと思える。
なのに何故そうならないのか?
433.腎の実証
腎には実証は無いと言われています。
それについて考えてみると、例えば腎の部分に湿熱などの邪気が溜まった場合、腎の湿熱とは言わず、膀胱湿熱と言っています。
これは言い方の違いで実は腎の湿熱と考えて良いものです。
また、尿出血などの場合で、出血の場所は膀胱ではなく明らかに腎の場合があります。
この場合、腎の血熱と考えて涼血の薬を使う事があります。
ただ、あまり使いすぎると腎の負担になる可能性があります。
そこで使う量を加減したり、補腎と涼血を同時に行うという方法になります。
腎の実証は存在するのだけども、腎は瀉薬に弱く使いすぎると腎虚になりやすい。
そんな事から戒めとして「腎に実証は無い」と言ったのだと思います。
その証拠として、補腎薬として有名な八味地黄丸には牡丹皮が含まれています。
牡丹皮は血熱や瘀血によく使い、補う作用はありません。
432.陰虚と痰湿
体の潤いや水分が足りない状態を中医学では陰虚とか津液不足と言います。
余分な水がたまっている状態を痰湿とか水毒と言います。
さて、この2つが同時にある事はあるのでしょうか?
足りない状態と余っている状態が同時に起こり得るのでしょうか?
実は、よくあります。
その理由は、場所の違いと状態の違いです。
場所の違いはある場所には余分な水がたまっていて、ある場所は潤い不足になっています。
例えば、胃腸には水が沢山たまっているけれども、筋肉などの水分は不足している場合です。
また、細胞の外には水が溢れているのに細胞の中では水分不足になっている場合です。
水分をガブガブ飲んでも吸収されなければ、胃がチャプチャプ言うだけです。
胃腸を丈夫にする健脾作用のある漢方を使うと良いでしょう。
状態は、綺麗な水が不足して、汚れた水がたまっている場合です。
いくら水分があると言っても、体で利用できない水なら意味がありません。
むくみ、腹水、胸水などがたまっている状態で陰虚になっている人は沢山あります。
水の流れを作るのは気血の働きです。
気血の働きをスムーズにする事でむくみが解消されます。
また血を補う婦宝当帰膠などでむくみが解消される事があります。
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