目次形式に切り替える161.遅脈
遅脈は、数脈の反対で、遅い脈です。
脈は熱があると速くなり、冷えると遅くなる傾向があります。
ですから遅脈は、冷えを意味します。
この場合は、冷えは、陽虚などのように身体が温める力が不足している場合と、「寒」邪をうけた場合があります。
陽虚の場合は、腎陽虚、脾陽虚、心陽虚などがあります。
これは、冷えている場所の違いですが、実際的には症状の違いになります。
寒邪の場合は、表裏を考えます。
また寒邪が長く体内に居座る宿寒の場合もあります。
あまりに脈が遅く、また不整脈を伴う場合は心臓に問題がある場合がありますからお医者さんの診察を受けて下さい。
これ以外に正常な遅脈もあります。
例えば、若い頃に激しい運動をしていた場合は心臓のポンプの力に余裕があります。
身体がスポーツに順応するためです。
この場合は運動していない時の脈は遅脈になります。
漢方的には、このような人は適度な運動を続ける事が大切です。
160.数脈
数脈とかいて、「さくみゃく」と読みます。
速い脈です。
速度だけの問題ですから、脈診の初心者でもすぐにわかる脈です。
非常に早い脈を疾脈と言いますが、漢方的な意味は同じで程度の違いになります。
数脈は一般的には熱を表します。
風邪や発熱性疾患で体内に熱がある場合に数脈になります。
ただ数脈がすぺて熱かというとそうとも言えません。
数脈には気虚の場合と血虚の場合がよくあります。
気が充分にあれば、心臓はゆっくりと、力強く血液を送り出します。
ですから、多少の運動でも数脈にはなりません。
心臓が押し出す力が充分でないと、少し動いただけで血液の供給量が不足して心臓がバクバクします。
これが気虚で数脈になる理由です。
また、血が不足しても血液の供給量が不足して、心臓がそれをカバーしようとして数脈になります。
簡単に言えば心が空回りしている状態です。
この場合は多くは、動悸や息切れが見られます。
159.脈診について
今回より脈診について、少しずつ書いていこうと思います。
私は鍼灸師の免許を持っていますから、自由に漢方的な脈診をする事が出来ます。
脈診をする時は、いろいろな流派があります。
一般的には、次指(人差し指)、中指、薬指の3本の指を橈骨動脈にあてて脈診をします。
この時、次指が手首にくるようにて、3本の指をならべます。
次指にあたる部分を寸脈、中指にあたる部分を関脈、薬指にあたる部分を尺脉といいます。
寸脈は上半身、関脈は身体のまん中、尺脉は下半身の意味があります。
右手は気にかかわるので、寸は肺 関は脾 尺は腎陽(命門)となります。
左手は血
158.治則 宿火
いろいろな宿邪は体内に長期に止まると化火する事が多くなります。
そのため宿邪の中では宿火が一番多くみられます。
宿火の治療は宿火が何処にあるかによって違いがあります。
多くは温病の理論「衛気営血」辨証を用います。
例えば李振波という中医師は白血病を伏気の温病の理論で治療しています。
また張志堅という中医師は温病で用いられる昇降散でアレルギー性の紫斑病性腎炎、アレルギー性血管炎、シーグレン症候群、非細菌性尿道炎などを治療しています。
アトピー性皮膚炎も宿火の一種ですが、宿火が血分にある場合、気分にある場合、衛分にある場合などで使う漢方も異なってきます。
またヘルペスなどのウイルス疾患も宿火の一種と考えます。
清熱解毒の板藍根などがよく使われますが、これはインフルエンザにもよく使われています。
ヘルペスは宿火ですが、インフルエンザか外邪です。
この違いはありますが、使う漢方は良く似ています。
157.治則 宿燥
宿燥の場合は、身体が乾燥するという事で津液不足や陰虚と混同しやすくなります。
しかし、両者には虚実の違いがあります。
宿燥の場合は、津液を補う事や陰を補うだけでは駄目で、必ず去邪する必要があります。
例えば桑杏湯などです。
辛味で潤すという概念も、津液不足に対してよりも宿燥に対して有効と思われます。
勿論、燥邪が長く去らない理由として津液不足や陰虚が関係する事も多くあります。
この場合は養陰清肺湯などが用いられます。
宿燥がある時に、滋陰のものだけを用いると邪気を閉じ込めてしまい、邪気がなかなか去らないという現象がおこります。
麦門冬湯に半夏が含まれているのは、これを避ける為と考えられます。
シーグレン症候群などの場合、ただ潤すものや陰を補うものだけを使っても思うような効果が出ません。
やはり宿邪を考えて去邪する必要があると考えられます。
156.治則 宿湿
内湿の場合と宿湿の場合での治療の差はあまり多くはありません。
ただ、宿湿の場合は三焦辨証を用いる事が出来ます。
また、外湿の場合と違い、湿邪が長く居座る理由として正気の虚があります。
特に、脾と腎の虚が関係している事が多いので、健脾薬や補腎薬との併用が必要になる場合があります。
また、肺気を開く事により、宿湿を出すという治療方法もあります。
湿については、非常に範囲が広く、それだけで1冊の本になっています。
宿湿の場合、非常によく用いられる処方が藿香正気散です。
155.治則 宿暑
暑は、湿と熱があわさったものですから、宿暑と湿熱は区別がつきにくくなります。
たとえば、細菌やウイルスの感染が原因で湿熱が出来た場合は、内因性の湿熱とは少し区別して宿暑と考えます。
慢性的な前立腺炎で、雑菌や白血球などが見える場合などは宿暑の例です。
それ以外にも、慢性的な扁桃腺炎や腎炎などもあります。
クラミジアが原因の卵管炎、また一部の抗精子抗体なも宿暑と考えます。
子宮腺筋症の一部にもみられます。
その他、ガンジタ、水虫なども宿暑と考えています。
アトピーや湿疹にもよく見られます。
免疫性の不妊症も、免疫のバランスなので、湿熱と考えるより宿暑と考える方が良い場合もあります。
このように考えると、宿暑の範囲は極めて広いと考えられます。
湿熱は清熱解毒ですが、宿暑の場合は三焦辨証を用いる事もあります。
ただ残念な事に、三焦辨証に対しての方剤は日本では完備されていません。
ですので、銀翹解毒散と竜胆瀉肝湯を併用するなどの方法を考えます。
154.治則 宿寒
宿寒の治則は、もし寒邪が経絡に服している場合は温経散寒になります。
たとえば桂枝加朮附湯などを使います。
寒邪が下腹部に宿している場合、寒凝血淤という症状になる事が多くあります。
寒邪が宿する事で、下腹部に淤血が出来てしまうためです。
この場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯がよく用いられます。
同じ冷えでも腎陽虚の場合と使う処方が異なってくる事が注意点です。
また腎陽虚の主な症状は冷えであるのに対して宿寒の場合は痛みを伴う事が殆どというのが区別点です。
ただし、寒邪が長く去らない理由の一つには腎陽虚があります。
ですから、去寒だけに注意をむけるのでなく、補腎陽も考えて治療していく事が大切です。
原因不明の不妊症で、中医学的には宿寒が原因の事はよくあります。
冷えると血流が悪くなり、骨盤内に瘀血がたまります。
この状態が寒凝血瘀です。
一番の特徴は生理痛で、温めると楽になります。
生理の色は黒っぽくなり、塊が沢山でます。
同じような症状で、血熱や瘀血も考えられますが、舌や脈などで正しく判断する事が大切です。
宿寒があると、骨盤内が冷えて、子宮や卵管の動きが悪くなる事も考えれます。
153.治則 宿風
今まで宿邪の性質についてお話ししましたので、次にそれぞれの宿邪の治則について簡単にお話しします。
まず宿風の治則。
宿風の治則は去風です。
よく使われるものが桂枝湯、香蘇散などです。
また風熱の場合は銀翹散、麻杏甘石湯なども使われます。
外風の場合との違いは、外風は精気の虚がまだあまり進んでいない場合が多く、少し強めの去風薬を使い一気に外邪を追い出します。
しかし宿風の場合は慢性化しています。
宿風が長く去らない原因の一つとして正気の虚があります。
ですから、正気特に衛気の強化が必要となります。
代表方剤が衛益顆粒や桂枝加黄耆湯などです。
去邪(邪気をとりのぞく事)と扶正(正気を助ける事)のバランスが伏邪の治療ではとても大切です。
また、宿風は長時間体内に居座り続けるため、化熱する場合が多いですが、寒邪とむすびついて宿風寒となる事もよくあります。
152.宿邪 宿火
宿火の代表はヘルペスです。
ヘルペスはウイルスが体内の一部に居座って去らない状態です。
このような場合は宿火を去らないと何回も再発さします。
ただし、宿火が動く背景には正気の虚がありますから、扶正去邪が大切です。
肝炎のウイルスは宿湿の場合と宿火の場合があります。
というより宿湿と宿火が入り混じったものです。
ただ、どちらの邪気が強いかにより、治則は異なります。
また、色々な宿邪は最終的には化火して宿火になる可能性があります。
アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、歯槽膿漏、痔などは宿火の代表です。
中医には「火鬱は発之」という治則があり、清熱解毒と同時に発散する方法がよく用いられます。
例えば痔に麻杏甘石湯、アトピーに銀翹解毒散などを用いる場合などです。
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