深谷薬局 養心堂

漢方薬局 深谷薬局養心堂

タイトル一覧

 

伏邪新書について

邪気は外邪と内邪に分けますが、あまり知られていませんが、それ以外に伏邪があります。
伏邪は清の時代の劉吉人という人が書いた「伏邪新書」という本に詳しく書かれています。
初めてこの本を見た時に大変なショックを受けました。
一般的に伏邪は、「冬に寒邪を受けると春に温病となる」と言ったような、伏気としての概念しかありませんでした。
この伏邪新書では伏気以外に病機が直った後に再発する場合とか、後遺症にあたるような場合なども伏邪としています。
伏邪には伏燥、伏寒、伏風、伏暑、伏湿があると書かれています。
この頃はまだ現代医学の考えは無かったので、いわゆる抗体とかアレルギー、自己免疫などという事は知らなかったはず。
ここに書かれている内容は、免疫と関係するような症状が書かれています。
個人的には伏邪は、免疫のバランスが悪くなっている状態と考えています。
このように考えると伏邪の考えは色々な病気に応用できます。
「燥邪が極まると却って潤いが生まれ、口の中に泡が出来る。これはちょうど温病の邪気が営分や血分に入ると口渇が減るのに似ている」
「胃腸が丈夫で伏風にあたると、食べるとすぐに下痢をする。これは脾虚ではない」
面白いのは伏湿の治療の中に「鶏肉とフカヒレのスープ」と言うものがある。これで病機が治るならとてもうれしい。温病でよく使われる雪羹(クロクワイとクラゲのスープー)よりも美味しそう。

検査値と中医学

血圧が高いから下がる漢方が欲しい
血糖値、中性脂肪、尿酸が高いから下がる漢方が欲しい
こういった相談が多い。
ただ、これはもともと無理な相談だと思う。
なぜなら、中医学が発展して来た数千年の歴史の中で、これらの現代医学的な検査をするようになったのせいぜい100年くらいの短い期間だからだ。
これらの検査値が上がる原因を中医学的に説明はできるが、まだ理論としては確立されていない。
なので、弁証論治も治則もまだこれから作っていく状態と言えます。
もちろん、血圧に良い処方というものも研究されていますが、この漢方を飲めば血圧が下がるというものは無いし、あったとすればそれはもう中医学の範疇には無いと言えます。
来月に会社の健康診断がある。
なんでも良いからすぐに血圧を下げて欲しい。

漢方薬は体質改善です。
体質改善しないで、血圧だけ下げるという方法は無いでしょう。
あったとすれば、それはもう漢方薬とは言えません。れっきとした西洋薬です。
漢方は体質改善をしていく中で自然に血圧が下がり、中性脂肪やコレステロールが下がり、ダイエットできると言えます。
つまり、数値を下げるのではなく、いかに健康で長生きするかの医学なのです。

超紹琴先生の医案

983年に北京に行った時に温病の大家、超紹琴先生の講義をお聞きした事があります。
超紹琴先生の症例を一つ紹介します。
52才の重症筋無力症の患者さん。
半年ほど入院して、今まで八珍湯、十全大補湯、帰脾湯、右帰、左帰など温補滋養の類を使っていましたが良くなりません。
4日前に突然に38.5度の熱が出て、さらに熱が高くなりました。
そこで診察に行ってみると患者の顔色は黄色く、痩せていて、精神に力がありません。
両目は開くのが困難。
舌は胖大で苔は白くガサガサで乾燥しています。
両脈は虚で濡、按じると少し滑です。
さらに沈めると弦細で数。
いわゆる虚で痩せている状態なのですが心煩で夢が多く、小便は黄色く大便は2日に1回で、体中壮熱です。
諸医は久病で気血が多いに虚している、肝温除熱以外に良い方法は無いと言います。
先生が思うに、陽虚で気弱なら温める薬を使えば少しは病状が軽くなるはずなのに熱がひどくなった。
そもそも新病は実が多く久病は虚が多いというが、久病もまた実を挟む事がある。真仮虚実、錯綜複雑、変化ははかりがたい。
この患者は高熱で、甘温で熱はひどくなった。
脈に滑の部分もあり、数の部分もある。真虚で、新感実邪。

そこで超紹琴先生は白虎湯を使われました。

-----------------

常識にとらわれず、わずかなヒントも見逃さない。
素晴らしい症例だと思います。


弁証論治だけでは足りない

中医学の切り札は「弁証論治」なのですが、弁証論治にも欠点があります。
弁証論治は今の状態をタイプ別に分類して、タイプごとに治療方法を変えるという作戦です。
病気が起こっているメカニズムを病機と言います。
そしてその原因を考えます。さらにこれからどうなるかという予測も必要です。
弁証論治以外にも、病因、病機、予測が必要です。
これはちょうど、囲碁や将棋と似ています。
過去の状態、今の状態を正しく把握して、未来を予測して次の一手を考える事が必要です。
例えば、目の調子が悪く、肝腎陰虚と弁証して杞菊顆粒を使うのは一定の効果があります。
ただ、肝腎陰虚を起こす原因を考える必要があります。
そうすると、例えば肝鬱気滞が原因とします。
その状態になると、おそらく陰虚以外にも瘀血が出てきます。
これは「久病入絡」という意味です。
そこで、杞菊顆粒に疏肝理気の作用のものを少し加え、活血化瘀のものも加えます。
このようにする事で、弁証論治だけよりもはるかに治療効果の良いものになります。
つまり時間軸が必要です。


妊娠中の活血薬について

血流を改善したり、血液をサラサラにする漢方薬を活血薬と言います。
昔は妊娠中に活血薬を使うと出血しやすくなり、流産の原因になると言われていました。
今でもそのように書かれている本やホームページがありります。
これは正しい部分もあるのですが、正しくない部分もあります。
不育症は、妊娠した赤ちゃんが正常でも何回も流産する場合を言います。
原因は抗体と考えられています。
抗体は、本来はウイルスや菌など外敵から身を守るものです。
ところがこれが暴走して敵ではないものを攻撃するのが花粉症や蕁麻疹などのアレルギーです。
さらに、自分の体の一部を敵と判断して攻撃してしまう場合があります。
これは自己免疫疾患といって、リウマチ、橋本病、1型糖尿病、膠原病など多くの病気がこれにあたります。
そして、子宮の中の胎児を攻撃してしまう抗体が出来てしまうのが不育症です。
抗体に沢山の種類があります。
私達の細胞膜はりん脂質でできていますが、リン脂質に対する抗体を抗リン脂質抗体と言います。
抗リン脂質抗体にも色々な種類があり、全部の種類を調べるのは大変です。
これらの抗体があると、血の塊、血栓が出来やすくなります。
血栓ができると、胎児に栄養が行かなくなり、死産や流産の原因になりります。
ですから、抗体のある人は血栓を予防する事が大切です。
病院でよく使われているのがアスピリンやヘパリンです。
どちらも血栓の予防になりますが、出血しやすくなる副作用があります。
ですから、慎重に使う必要があります。

漢方薬でも血流を改善して血栓を予防するものがあります。
これが活血薬です。
ヘパリンやアスピリンと違い、これを飲んで血液が止まりにくくなるという事はありません。
妊娠中に活血薬が必要な方と、飲まない方が良い方があります。
簡単に言えば瘀血があるか無いかで区別します。
本当に瘀血があるのか?活血薬が必要なのか?の判断はかなり難しいです。
ですから、妊娠中に活血薬を使う場合は、漢方の専門家に判断してもらいます。

西洋医学と漢方の考え方は全く違います。
西洋医学では、一つ一つの成分を重視して、この成分は妊娠中は良くないと判断します。
漢方は、一つ一つの成分よりは全体を重視します。
例えば、子宮を収縮する成分と、子宮の収縮を抑える成分が含まれている処方があります。
この場合は、含まれている成分の量と方向性が大切です。
反作薬と言って、わざわざ主薬と反対の作用のものを入れる場合があります。
スイカに塩をかけるのと同じです。
中医学はバランスの医学です。
白黒はっきりさせるという考えはありません。
全体的なバランスを大切にします。

油絵が上手な人が漫画も上手とは限りません。
その逆もです。
西洋医学と中医学は医学といっても油絵と漫画ほどの開きがあります。
西洋医学の達人が中医学とはいえないのです。


中医学で膵臓は?

膵臓は消化液を分泌する大切な臓器です。
しかし、中医学の五臓には膵臓はありません。
中医学の五臓には脾臓があります。
食べたものを吸収して運ぶ働きで、とても大切な臓器です。
現代医学の脾臓は血液や免疫との関係が深く、消化とはあまり関係していません。
脾臓と膵臓はほぼ同じ位置にあります。
この事から考えると、中医学の脾臓は、現代医学の膵臓にあたると考えられます。

中医学が間違っているのではありません。
中医学の方が現代医学より古いので、現代医学が間違えて名前をつけてしまったのです。

五臓と数

五臓と数との関係で、数には生数と成数があります。
まず生数から説明します。
生数は生まれつき持っている数です。
1 腎
2 心
3 肝
4 肺
5 脾
となっています。
どうしてそうなったかは、はっきりとは書かれていません。
ただ、想像するに胎児の発育と関係していると思われます。
受精卵から胎嚢までは、父母の腎精から作られると考えられます。
ですから、腎が始めに作られます。
その次に心拍が確認されます。
そして母体内で肝も機能していきます。
生まれてはじめて呼吸をします。
そして、母乳を飲むのが一番最後になります。
ですから、この順番になるのではと思います。
さて、脾の働きです。
中国思想では、脾、つまり土は中央に位置して、すべての臓腑にかかわるものです。
数字でも、脾は特殊な意味を持ちます。
生数は生まれつきの数ですから先天です。
これに後天の精である脾、つまり5を加えて出来たものが成数です。
腎では1+5で6となります。
心は2+5で7です。
ここで奇数は陽、偶数は陰ですから、腎の成数は陰です。
生数が陽なら成数は陰になり、生数が陰なら成数は陽となります。
つまりすべての成数は陰と陽があわさっています。
中医学では、生物はすべて陰と陽が合わさって出来ていると考えているのです。
ですので、生数よりは陰と陽があわさり、脾の力のある成数の方が生物的には重要となります。

五臓と方角

五臓と方角を説明する前にまず、五行と五臓と色の関係ですが、
 木 肝 青
 火 心 赤
 土 脾 黄
 金 肺 白
 水 腎 黒
このようになっています。
方角については
 北は寒い、つまり水と関係があり、臓腑では腎となります。
 南は熱い、つまり火と関係があり、臓腑では心となります。
中国大陸から見ると、東は海です。
ですので、東は青。つまり肝と関係があります。
西は砂漠が広がっていて、白いイメージ。つまり肺と関係しています。

さて、中央は土、つまり黄色い色で、脾と関係があります。
そういう意味で脾は万物の母と考えます。
農作物をはぐくむ大地のような意味です。
このような訳で中医学では脾をとても重視しています。

前回の季節と方角入れると五行は
 木 肝 青 春 東
 火 心 赤 夏 南
 土 脾 黄 土用(長夏) 中央
 金 肺 白 秋 西
 水 腎 黒 冬 北
という関係になります。


五臓と季節

季節とご臟には密接な関係があると言われています。
例えば、
 春 は 肝 の季節
 夏 は 心
 秋 は 肺
 冬 は 腎
と言われています。
さて、五臓は5個ありますが、季節は4つしかありません。
そこで脾は、「長夏」もしくは「土用」に割り当てられています。
長夏とは、梅雨の時期です。
ただ、この考えはあまりしっくりしません。
そこで今では土用に当てはめる事が多いようです。
土用は季節の移り変わりの18日間です。
各季節にすべて土用があるので合計で72日間です。
この各季節の中にすべて土用があるという所が脾の特徴です。
脾は他の臓器を栄養しています。
ですので、他の臓器は脾が無いと活動出来ません。
つまり
 肝 + 脾 = 正常な肝 となります。
他の臓器も同じです。
ですので、脾を土用に当てはめるのはとても理にかなっていると言えます。


陰とは 陽とは

陰と陽の間には、次のような関係があります。
陰陽対立 いんようたいりつ
陰陽消長 いんようしょうちょう
陰陽互根 いんようごこん
陰陽転化 いんようてんか
陰陽対立 いんようたいりつ

陰と陽は、反対の概念で、お互いに対立しています。
この事から、陽が強ければ陰が弱く、陰が強ければ陽が弱くなります。

体が熱くなりやすい人は、体内の陽が強く、陰が弱いということになります。
また、逆に体が冷えやすい人は、陽が弱くて、陰が強いという事です。

陰陽消長 いんようしょうちょう

陰と陽は、いつも同じ状態ではありません。
例えば、気節の変化をみてみますと、春から夏にかけては、陽気がどんどん
強くなっていきます。
それと同時に陰気はどんどん弱くなっていきます。
陰陽消長は陰陽対立とよく似た概念ですが、陰陽対立は、陰陽の性質について述べた物で、陰陽消長は、陰陽の変化について述べたものです。

陰陽互根 いんようごこん

陰陽は、お互いに転化します。
つまり、陽は時として陰に変化し、陰は時として陽に変化します。

物質が燃えると、エネルギーが出来ます。これは、陰から陽が生じたのです。
また、植物は、太陽の光から、いろいろな食べ物を作ってくれます。
これは、陽が陰に転化したものです。

陰陽転化 いんようてんか

陰陽は、お互いに転化します。
つまり、陽は時として陰に変化し、陰は時として陽に変化します。

物質が燃えると、エネルギーが出来ます。これは、陰から陽が生じたのです。
また、植物は、太陽の光から、いろいろな食べ物を作ってくれます。
これは、陽が陰に転化したものです。


次のページ


 トップページに戻る