深谷薬局 養心堂

漢方薬局 深谷薬局養心堂

タイトル一覧

 

肝について

中医学でいう肝は、現代医学の肝臓とは大分違います。
肝は、肝臓の機能だけでなく、自律神経の機能も包括しています。
肝は、筋(すじ 腱 神経繊維) と関係があります。
また、目の働きも肝と深いつながりがあります。
肝は血液を蓄えていて、必要に応じて、全身に供給しています。
また、自律神経の働きも肝に屬します。
肝に問題があると、イライラしやすいなどの症状が出てきます。

肝の病理は、肝郁気滞 と 肝血不足 肝陽虚 肝陰虚 などがあります

「肝気虚」
肝気は、肝臓がもっているエネルギーです。
肝は疏泄をつかさどっています。
肝の疏泄とは、
 情緒を安定させる働き
 胃腸の働きを助ける
 全身の気の流れを調節して、気機を助ける働き
    気機とは、気が上ったり降りたり、浮いたり沈んだりする気の動きを意味します。

肝の持つエネルギーが不足すると、無気力、食欲がない、だるい などの症状がおこります

「肝血不足」
肝には、血を臓する働きがあります。
肝臓には血が沢山あるのです。
昼間は体の中をめぐっている血も、夜になると、肝臓の中に戻ってきます。

肝血が不足すると、貧血のような症状がおこります。
顏色が悪い、疲れやすい、舌の色が淡白などです。
また、肝気とのバランスが悪くなり、気血両虚や肝気鬱結を起こします。

肝は目とも関係が深いので、肝血虚になると、目が疲れたり、見えにくくなります。
このような時は、当帰 芍藥 枸杞子 などを用います。

肝は、女性の生理の周期を調整する働きもあります。
肝血虚になると、生理不順になる事があります。
このような場合は、当帰の沢山入った婦宝当帰膠などを用いると良いでしょう。

「肝陽虚」
肝陽虚は、中国の漢方の教科書にもあまり載っていません。
なぜなら、どちらかというと、肝は陰が不足して、陽が多い事が多く、肝の陽氣の
不足という状態はあまりおこらないからです。
しかし、数は少ないですが、肝陽虚も存在します。
肝陽虚になると、肝気虚の症状の他に、冷えが起こります。
疲れやすい、ため息をよくつく、やるきがしない、クーラーが苦手、手足が冷える
などです。

肝陽虚の人は、当帰、桂枝、呉茱萸などを多く用います

「肝陰虚」
肝の陰は、腎の陰とともに、体の中ではとても大切な役割をしています。
肝の性質は、剛です。
もともと陽気が強い臓器です。
このため、肝の陰は不足しがちです。
肝は、木に例えられます。
ですから、肝の陰が不足すると、木は、みずみずしさを失って、枯れ木のようになってしまいます。
肝の陰が不足すると、肝から火を生じます。

肝陰虚の特徴は、目の疲れ、目の乾き、イライラ、口のかわき、手足の火照り、不眠、
ストレスなどです。
代表的な方剤は、杞菊地黄丸

「肝鬱気滞」
の気は、体の中ではとても重要な働きをしています。
その主な作用は、疏泄作用といいます。
肝の疏泄とは、
 情緒を安定させる働き
 胃腸の働きを助ける
 全身の気の流れを調節して、気機を助ける働き
    気機とは、気が上ったり降りたり、浮いたり沈んだりする気の動きを意味します。

この肝気の流れがスムーズに行かない事を肝鬱気滞といいます。
肝鬱気滞は、肝気欝結とも言います。

肝鬱気滞の主な症状は、
 イライラする
 つまる感じ
 張る感じ
 気力が無くなる
などがあります。

肝の疏泄を良くする漢方薬としては、柴胡があげられます。
代表的な方剤は、加味逍遥散です。

「肝火上炎」
肝鬱気滞が長く続いたり、日頃から体質的に熱を持ちやすい体質の場合は、
肝火上炎という病態がおこります。
肝火上炎は、肝鬱気滞の症状の他に、のぼせが加わります。

具体的には、
 顔が赤い
 血圧があがる
 不眠
 鼻血
 顔があつい
などです。

 肝火上炎には、竜胆、夏枯草、黄岑、大黄などが用いられます。

「肝陽上亢」
肝火上炎や、肝陽上亢が長く続くと、肝風内動という病態を引き起こします。
肝風内動は、振るえやしびれを主な症状としています。
昔から、中風の前触れと言われ、肝風内動が現れた時には要注意です。

具体的な症状としては、
 めまい
 ふるえ
 しびれ
 舌がもつれる
 言葉がうまくしゃべれない
 まっすぐ歩けない
などです。

 よく使われる生薬は、羚羊角、石決明、釣藤、地竜、全蝎などがあります。
 
「肝風内動」
肝火上炎や、肝陽上亢が長く続くと、肝風内動という病態を引き起こします。
肝風内動は、振るえやしびれを主な症状としています。
昔から、中風の前触れと言われ、肝風内動が現れた時には要注意です。

具体的な症状としては、
 めまい
 ふるえ
 しびれ
 舌がもつれる
 言葉がうまくしゃべれない
 まっすぐ歩けない
などです。

 よく使われる生薬は、羚羊角、石決明、釣藤、地竜、全蝎などがあります。

「肝経湿熱」
肝の経絡は、足から陰部をめぐって、脇腹を通っています。
肝経の湿熱は、この部位に湿疹や炎症を起こす事が多いようです。
また肝は目とも関係が深いので、目にも異常が出ます。

肝経湿熱の具体的な症状は、
足の内側の痛み腫れ、陰部の痒み、痛み、腫れ、だだれ、
脇腹のいたみ、腫れ、目やに、目のただれ、排尿痛、排尿困難などです。

よく使われる薬としては、竜胆瀉肝湯、茵陳蒿湯があります。

胆について

胆は、決断を司っています。
また、肝から胆汁を受けて、胃に注いでいます。
胆は、いわゆる「きもったま」です。
胆が丈夫だと、大胆です。
胆が弱いと、いつもびくびくして、おびえ、不安が一杯です。
胆の病理としては、胆の気が不足した胆気虚と、胆に湿熱がたまった
胆湿熱、そして、肝胆湿熱があります。

「胆気虚」
胆は、決断を司っています。
ですから、胆の気が虚すると、優柔不断になり、いつもびくびくしています。
驚きやすくなり、不安感や不眠が出る事が多いようです。

胆の気を補う時は、単純に補気するだけではだめです。
胆の気の流れを調節して、肝から受ける気の流れを良くする必要が
あります。
胆は、経絡的は少陽経で、三焦も少陽経に属しています。
三焦は気血水の流れる道です。
このため、胆は肝の気を受けて、気血水の流れを調整していると言えます。
胆気虚には、通常の補気薬だけでなく、温胆湯を併用して、
胆の気の流れを良くする必要があります。

「胆湿熱」
胆は、肝からの気を受け、胆汁をためています。
胆汁は消化に必要なものですが、時として多すぎて胃から食道に逆流する事もあります。
このような病理状態を胆湿熱といいます。
多くは肝の湿熱を伴っているので、肝胆湿熱となります。

胆の湿熱は、胆汁が食堂や口にあふれ、口が苦い、吐き気、胸焼けなどの
症状を起こす場合と、皮膚にあふれて黄疸を起こす場合があります。

痰湿熱によく使われる処方は、黄連温胆湯、黄連解毒湯、茵陳蒿湯などです。

「肝胆湿熱」
肝経の湿熱と、胆の湿熱が同時に見られる病態です。
肝と胆は表と裏ですから、肝の湿熱は胆の湿熱を伴う事が多く、
また胆の湿熱も肝の湿熱を伴う事が多いのです。

肝胆湿熱の症状は、肝の湿熱である イライラ、起こりやすい、不眠
のぼせ、肝経にそった痒み、陰部の痒み、湿疹、目の痒み、ただれ、赤目と
ともに、胆経の湿熱である口が苦い、吐き気、胸焼け、黄疸などが現れます。

薬は、肝経湿熱と胆湿熱のどちらが重いかを考えて、それぞれの薬を併用して

心について

心は、中医学的には心臓だけでなく脳の働きも心に属させています。
心の働きの主なものは、血液を全身に送りだす働きです。
血液を送り出す力は、心気の力によります。
心気は、宗気と関係しています。
宗気は、主に空気中のエネルギーを得て胸中で作られる気です。
宗気は、心臓を動かす働きと、肺を動かして呼吸をする力の源です。
宗気が不足すると、心臓のポンプの力が弱くなり、呼吸の力が弱くなります。
そのため、動悸、息切れなどが起こります。
心を動かすエネルギーの心気の元になっているのが、心血です。
心血は心に血液を送り、心臓を養っています。
さらに心は腎と肝との関係が深いのです。
心は化火しやすく、この心の火を押さえているのが、腎の水です。
腎水が不足して、心火が亢進する状態を心腎不交といいます。
肝は、自律神経を意味しています。
心は、脳神経ですから、心と肝は非常に密接に関係しています。
「心気虚」
心の気の働きが衰えた状態を心気虚といいます。
心気虚は、心気不足とも言います。
心気虚を起こす原因としては、情志の失調や、先天的に心が弱い、久病、老化などが
考えられます。
心臓のポンプの力が衰えて、動悸、息切れなどがおこります。
また、心は脳の機能も包括していますから、精神衰弱なども心気虚に属します。
主な漢方薬としては、心のポンプの力が低下して場合は、麦味参を用います。
精神が衰弱した場合は、帰脾湯などが用いられます

「心陽虚」
心には、心火といって、体を温めている大切な火があります。
これを君火と言います。
君火は、腎にある相火とともに、体の体温を維持したり、血流を保ったりしています。
君火が衰えている状態を心陽虚といいます。
心陽虚は、心気虚を伴う事が多く、心気虚の症状が見られます。
さらに、君火の力が弱いので、手足の冷え、背中の冷え、時には全身的な冷えが
現れます。
また、冷えると血流が悪くなり、痛みを起こす事もあります。
さらには、水の流れも悪くなり、むくみを起こします。
心陽虚には、乾姜、附子、桂枝など、暖める生薬をよく用います。

「心血虚」
心を養う血液が不足しておこる病態を心血虚といいます。
心血虚は、心血不足とも言います。
心は、心臓のポンプの問題と、神といって、大脳の問題があります。
心血が不足すると、心臓のポンプに問題がおこって、動悸や息切れがおこります。
また、時には胸苦しい感じがする事もあります。
大脳に問題が出ると、不眠、健忘などがおこります。
心血を補う漢方薬としては、当帰、竜眼肉、柏子仁などがあります。
方剤としては帰脾湯が有名です

「心陰虚」
心を養う陰液が不足しておこる病態を心陰虚といいます。
心陰虚は、心陰不足とも言います。

陰液とは、簡単に言えば栄養液のようなものです。
心は、陰液という栄養液で養われています。
この液が不足すると、心の機能に問題が出てきます。
一つは、心臓のポンプの問題です。
主な症状は、動悸、息切れ、胸のつかえなどです。

もう一つは、大脳の問題です。
心は、神を司っています。
神は、意識です。
これは、現代医学的に言えば大脳の問題です。

心陰虚になると、脳を養う栄養が不足します。
このときには、脳の働きが低下して、痴呆症、記憶力や集中力の低下などがおこります。
心の陰液は、心火を押さえる働きがあります。
このため、心の陰液が不足すると、心火が亢進して、不眠、イライラなどが
現れる事があります。
心の陰を補う代表的な方剤は、天王補心丹です。

「心血淤阻」
心血淤阻は、血脉淤阻ともいいます。
血液がよごれを淤血といいます。
淤血によって血液の流れが悪くなった状態を血淤と言います。

血淤は体の至る所に現れる可能性がありますが、特に心臓によく現れます。
現代医学でいう狭心症などは心血淤阻と考えても良いでしょう。

心血淤阻の症状は、針で刺すような胸の痛みです。
これがひどくなると、絞られるような痛みになります。
心血淤阻の代表方剤は、冠元顆粒、血腑逐於湯などです

「痰濁淤阻心脈」
痰濁とは、簡単に言えば余分な脂の事です。
中性脂肪やコレステロールなどです。

こういった汚れが、心臓の血管につまった状態を痰濁淤阻心脈と言います。

痰濁は、淤血と結び付きやすく、淤血と痰濁の両方が心脈につまったものを
痰淤互阻心脈と言います。

症状は、心胸部の息苦しさ、痛み、動悸、息切れ、時に痛みの発作などです。

苔は、厚く、膩苔です。
やや化熱すると、黄膩苔になります。
脈は、滑脈ですが、痛みが強いと弦脈、症状が重いと、時に沈細になります。

治療方法は、化痰して心脈を通じる方法になります。

半夏、瓜呂仁、枳実、薤白などを用います。
また、痰淤互阻心脈の時は、川きゅう、丹参、赤芍など活血化淤薬と同時に用います。

「大気下陥」
胸中にある、呼吸と心臓の鼓動の原動力は、宗気と言われています。
この宗気は、大気とも言います。
食事の中の気と、鼻から呼吸した空気中の気が合わさってできたものです。
この気が不足すると、動悸、息切れが起こります。
大気は、胸中にあるのが正常です。
しかし、この気が不足した時に、胸中から、下に落ちてしまう事があります。
このような病理状態を大気下陥と言います。
主な症状は、呼吸困難です。
特に、大気下陥の場合は、息を吐くのが辛い状態です。
脈は尺脉が弱くなります。

主な処方は、昇陥湯です。昇陥湯が無い場合は、補中益氣湯で代用します。

「痰迷心竅」
痰濁という毒素は、脂と水が混ざったようなものです。
この痰濁が心に入り込み、心竅を塞いだものを痰迷心竅といいます。

心には、血液を送り出す心臓としての役割と、大脳の役割があります。
後者を特に「神」といっています。
「神」の働く場所を特に「心竅」といっています。
「竅」は、あなという意味です。
心の窓というように、「神」と外界は「竅」というあなでつながっていると考えています。
ここに、痰濁という毒素が入り込んで、この大切なあなをふさいでしまった状態が痰迷心竅です。

痰迷心竅の特徴は、意識障害です。
その他に、のどに痰がつまった感じがして、舌は白膩、脈は弦滑になります。
痴呆、ひとりごと、泣いたり笑ったりする、などの症状があらわれます。

治療は、半夏、胆南星などを用います。

「痰火擾心」
痰濁という毒素は、脂と水が混ざったようなものです
痰は湿よりも粘っこいものです。
病理的には、湿が熱せられて、煮詰まって粘っこくなると考えられます。
このため、痰は火と結びつく事が多くなっています。

痰が、心竅という部分に入り込んだものを痰迷心竅といいますが、
痰迷心竅の症状と一緒に、火が心を脅かす状態があるものを痰火擾心と
いいます。

痰火擾心の主な症状は意識障害です。
精神病の一部分に見られます。
例えば精神分裂病などです。
精神が錯乱して、暴れ出すなどの症状です。
また、熱病などの場合にも現れる事があります。

治療は、胆南星、牛黄、黄連、瓜楼仁、蒙石、大黄などを用います。

「心神不寧」
心神不寧(しんしんふねい)は、心が安まらない状態をさしています。
これは、一つの状態を指すもので、正確には弁証とは違います。
弁証は、病気をおこしている原因を分析していくものです。
心神不寧は、病気の原因というよりは、病気の結果、つまり症状を意味しています。

心神不寧を起こす原因としいは、心気が著しく消耗した心気虚と、心血が不足して
心気を養えなくなった場合によく起こります。
また、肝火や胆火が原因で、心火に影響を与えて起こる事もあります。

心神不寧の治則は養心安心です。
心気虚に傾く場合は、帰脾湯を用います。
心血虚に傾く場合は、柏子養心丸を用います。

「心腎不交」
心と腎は、密接な関係があります。
腎の中には火と水があります。
この火は、心の火を補っています。
また、腎の水は、心の火が燃えすぎないように抑制しています。

もし、腎の働きが悪くなり、腎の水が心火を押さえられなくなった場合、心腎不交が
おこります。

症状としては、不眠、耳鳴り、イライラ、口渇などです。

よく使われる処方は、黄連阿膠湯と天王補心丹です。


小腸について

小腸は、現代医学の小腸とほぼ同じと考えて良いでしょう。
食べたものは、胃で初期の消化を受けます。
その後、小腸に運ばれていきます。
小腸では、食べたものから栄養と水分を吸収して、脾に運びます。
このため、小腸に異常があると、食べたもの吸収が悪くなったり、下痢をしたりします。
小腸は心と密接な関係があります。
心の熱が小腸に移る事がよくあります。
口内炎、下痢、尿の異常などが現れます。

小腸の病変としては、小腸虚寒証、小腸湿熱、小腸気滞、心熱移小腸などがあります。


胃について

中医学では、胃腸の消化機能の多くは「脾」の働きと考えています。
胃は、食べたものを一時的に蓄えておく器のような働きをしています。
そして、少しずつ腸の方に、食べたものを送り出しています。
つまり、「食べたものをおさめる働き」と「蓄えたものを小腸に送りだす働き」が、胃の主な働きといえます。
胃の気は、下に降りていくのが正しい働きです。
これがうまく行かず、食べたものが食道に逆流した場合、胃気の上逆といいます。
また、げっぷ、胸焼け、しゃっくりなども胃気に問題があると考えています。

胃気不和
胃気は、消化を助ける気です。
正常な状態では、胃気は下に降りる働きがあります。
つまり、食べたのもを食道から胃へ、胃から腸へと運んでいきます。
この働きがうまく行かない事を胃気不和といいます。
現代医学的に言えば、胃や腸の蠕動運動がうまく行かない状態です。
特に、蠕動が強すぎて、食べたものが逆流する事があります。
このような時は、お腹が張り痛む、胃が張る、胸焼け、胃液が逆流する、
吐き気、げっぷなどの症状がおこります。

胃気の働きは、肝とも関係が深いのです。
肝気の働きが悪くなると、胃気の働きも悪くなり、肝胃不和を起こします。

胃気不和の場合は、平胃散などを用います。
肝胃不和の場合は、開気丸を用います。

肝胃不和
肝と胃は、相剋関係にあります。
つまり、肝気が強くなると、胃気は制約を受けすぎて、働きが低下してしまいます。
肝は、ストレスや自律神経と関係が深いですから、ストレスなどで自律神経が不安定になると、胃の消化機能が低下します。
このような時によく見られる症状は、胃のもたれ、胸焼けなどです。
肝胃不和の場合は、ストレスの影響を強く受けるので、胃の状態はストレスによって変わります。
つまり、調子の良い時と、悪いときの差がかなりあります。

よく使われる漢方薬は、「開気丸」です

胃気上逆
胃の気は、下に降りていくのが正しいと言えます。
つまり、食べたものを腸の方に運んでいく働きがあります。
この働きがスムーズにいかなくなった状態を胃気上逆と言います。
具体的な症状としては、胃のつかえ、もたれ、げっぷ、吐き気、胸焼けなどです。

胃気上逆の治療法則は、和胃降逆です。
代表的な方剤は旋覆花代赭石湯ですが、これは日本ではあまり使われないので、
代用処方として、半夏瀉心湯が用いられています



肺について

中医学的に見ると、肺の機能はさまざまです。
呼吸を主るだけでなく、皮膚も肺の機能に屬します。
また、免疫機能や、気、水の流れを調節しています。
胃から吸収された食物の栄養は脾に運ばれてから、さらに肺に運ばれます。
ここで、空気中から得られた気と混ぜあわせ、宗気という気をつくります。
宗気は心臓の鼓動や肺の呼吸のエネルギー源となっています。
また、肺の気は、全身に流れると共に、一部は下に降りて腎に運ばれます。

このように、肺の働きは複雑ですが、「気」と関係が深い臓器と言えます。

肺は嬌臟である
肺は、とてもデリケートな臓器です。これは直接外気にさらされている事が原因です。
肺は、華蓋
肺は、各臓器の一番上にあります。臓器の蓋の役目です。
肺は宣発と粛降を主る
宣発は、気を全身に流す働き。粛降は、肺気を腎に運ぶ働きです。
肺は百脈を朝ずる
肺は気の流れを主っています。血は気によって流されていますが、肺気の流れは血液の流れとも直接関係をもっています。

肺気虚
肺の気の働きが弱った状態を肺気虚といいます。
肺の気は、
 外気を呼吸する働き
 皮膚呼吸
 汗の調節
 免疫の調節
 血流の調節
 エネルギーを腎に送る
 宗気の生成
などにかかわってきます。
肺気が弱ると
 呼吸に力がなくなる
 少し動くと息切れがする
 風邪をひきやすい
 血流が悪くなり、チアノーゼなどがおきる
 汗がだらだらと、止まらなくなる
 喘息
などの状態がおこります。

肺気を強める生薬としては、黄耆 冬虫夏草などがあります。

方剤としては、参鹿丸 や 玉屏風散などがあります。

肺陽虚
肺気虚の状態に加えて、肺の陽気が不足した状態を肺陽虚といいます。

陽気は体を温める働きがあります。
この陽気は、陰とバランスを保っています。
余分な水は、湿と言われ、陰に属します。
肺の陽気が不足してくると、これにつけ込んで、陰邪である湿が進入してきます。
ゼーゼーと呼吸困難が起こり、それと共に、薄い水のような痰がわき上がって
くる状態です。

このような場合、乾姜、附子、細辛、黄耆などを使います。

肺陰虚
陰とは、栄養液のようなものです。
肺の陰は、肺を潤す作用と、肺の熱をさますという二つの働きを持っています。
肺の陰が不足すると、肺に関係する部位が乾燥してきます。
肺に関係する部位とは、具体的に言えば皮膚、鼻、気管支、肺です。
この部分に潤いがなくなり、かさかさしたり、つっぱったりします。
また、陰の熱をさます機能が低下すると、肺に熱がこもり、粘っこい痰がからんだり、
咳が長引いたり、皮膚に赤みを帯びたりします。

このような場合は、肺の陰を補う事が大切です。
よく使われる方剤は、百合固金湯、麦門冬湯などです。
熱が強い場合は、養陰清肺を使います。

痰湿阻肺
痰湿とは、余分な脂や繊維、水などです。
こういった邪が肺にたまって、肺の気の流れを阻害しているのが痰湿阻肺です。

痰が多く出るのが特徴で、呼吸が困難になったり、ゼーゼーひゅーひゅー言います。
この場合、咳を止めるよりは、痰を排出してやる事が大切です。

よく使う生薬に、貝母、半夏、瓜楼仁などがあります。

痰湿阻肺で、冷えが強い時は小青竜湯をよく使います。
熱が強い場合は、柴陥湯などを使います。

風寒束肺
身体の外からやってくる病気の原因を外邪と言っています。
外邪は、空気に含まれているものと、食物に含まれているものがあります。
このうち、空気に含まれているものは、鼻から気管支を通って肺に入ります。
この爲、肺は常に外邪の攻撃にさらされています。

この外邪の中で一番強力なのは寒という邪気です。
寒は、風という邪気と協力して肺の中に入り込みます。
この状態を風寒束肺と言います。

風寒束肺の症状は、咳、悪寒、くしゃみ、鼻水などです。
よく使われる漢方薬は、麻黄湯です。

大腸について

漢方的な大腸は、現代医学の大腸と、意味はよく似ています。
大腸の働きと病気は、一部のものを除いて現代医学と同じと考えても良いでしょう。
中医学では、大腸に熱がこもった状態になると、便秘だけでなく、意識障害が
起こると考えています。
特に、熱病などで、邪熱が大腸に入り込んだ状態になると、意識障害がおこります。
この時によく用いられる処方が大承気湯です。
一部の脳血管障害の急性期に、意識障害とともに、便秘を伴う事があります。
この場合、下剤や浣腸などで大便を出してあげると意識障害が軽くなる事があります。
この場合も、大腸に熱がこもって、意識障害を起こしていると考えられます。

また、大腸に湿熱がたまって、血便が出るときは、白頭翁湯を使います。
逆に冷えて血便が出る時は、桃花湯を用います。


腎について

腎は、漢方ではもっとも大切な臓器とされています。
漢方でいう腎は、現代医学の腎臟だけではありません。
ホルモンや、エネルギーの生成、骨や発育なども腎と関係があります。
腎にはいろいろな働きがあります。
特に、生殖の力を腎気といいます。
さらに、先天の気というものを人間は産まれた時に両親から受け継いでいます。
この先天の気は腎精とも言われ、腎の中に蓄えられていまする
腎精は、とても大切なものです。
老化や寿命などは腎精と大きくかかわっています。
生殖の能力も腎と関係があります。
ですから婦人科系統の病気の多くが腎と関係があります。
また、副腎なども腎に属していますから、その他のホルモンも関係しています。

腎陽虚
腎陽は、身体の中の陽気の中心となっています。
簡単に言えば、腎陽は、身体の中のボイラーの役目をもっています。
身体全体を暖めたり、特に胃腸を暖めいてます。

腎の陽気が不足すると、身体全体が冷えてきます。
また、胃腸の働きが悪くなり、下痢をしたりします。
さらに、陽は水の流れを調節しています。
陽気が不足すると、水の流れを調節出来なくなります。
このために、水が体中にあふれ出して、浮腫や喘息などの原因になります。
また、腎はホルモンや生殖器と関係が深いので、腎陽虚は生理不順や不妊症の
原因にもなります。

腎の陽を補う時は、附子や桂皮などを用いて、素早く腎陽を助ける場合と、
鹿茸、杜仲、巴戟天などで、ゆっくりと腎陽を補っていく場合があります。

代表的な漢方薬は、右帰丸、海馬補腎丸、至宝三鞭丸があります。

腎陰虚
腎の中には、陰と陽があります。
腎の陽が、身体の陽中心であるように、腎の陰もまた身体の陰の中心と言えます。

腎は水と関係の深い臓器です。
つまり、腎陰は身体の中の水分の供給に関係しています。
このため、腎陰が不足すると、身体の中の水分が不足した状態になってきます。

皮膚がカサカサする肺陰虚
イライラしてのぼせる肝陰虚
やせて、疲れる脾の陰虚
動悸がして不眠などの心陰虚

これらの陰虚のすべては、腎陰虚と関係しています。
腎陰虚が原因で他の臓器に影響を与える事もあります。
他の臓腑の陰虚は、時間がたつと、必ず腎の陰虚を引き起こします。
何故なら、腎の陰は、他の臓器に陰を与える、ちょうど銀行のような役目をしているからです。

腎陰虚に用いるもっとも有名な漢方薬は六味丸です。

腎精不足
腎精は、両親からうけついだ先天の気を基に、脾胃から受け取る後天の気により
絶えず補充され、腎の中に蓄えられた人間の生きる爲の根本物質です。
この腎の精が不足すると、知能の低下、運動能力の低下、免疫機能の低下、
発育の低下などが起こります。

両親から受け継いだ先天の精は、薬では補う事はできません。
このために、腎精を補う爲には、後天の気である脾からの気を補っていく必要があります。

腎精を補うものとしては、紫河車、鹿茸、人参などが考えられます

腎血淤
腎血淤は、腎に淤血を生じた状態です。
通常は、腎の淤血は、あまり問題にしません。
しかし、実際の臨床では、腎血淤はよく見かける状態です。

腎には、実証はないという人がいます。
それは、腎は、精を臓する大切な臓器で、陰と陽の根元でもあるからです。
この大切な腎は、消耗こそすれ、邪がたまる事は無いという考えです。

しかし、そもそも臟というのは、ものを溜め込む性質のものです。
ですから、邪を溜め込む事もあります。

その溜め込む邪が何であるかによって、腎の湿熱や腎の血淤というものが考えられます。

腎の血淤の症状は、腰の部分の刺すような痛み、血尿などです。
よく使われる生薬は牡丹皮、生地黄などです。


膀胱について

膀胱は、腎と表裏をなしていて、尿をためる大切な所です。
身体の中の津液の生成に関与しています。
膀胱が尿や津液を作る働きを気化機能といいます。
この気化機能の働きが悪くなると、尿の生成がうまく行かなくなり、
尿の量がすくない、浮腫、口渇などがでてきます。
膀胱は、太陽膀胱経にぞくしています。
太陽膀胱経は、足の裏側から背中、首を流れるもっとも大きな経絡論です。
風寒などの外邪は、まずこの太陽膀胱経から体内に進入します。
ですから、身体に風寒の外邪を受けると、膀胱経に反応が出てきます。
また、太陽膀胱経には、兪穴といって、内臓の状態に反応する大切な経穴があります
膀胱湿熱
膀胱に湿熱がたまった状態を膀胱湿熱と言います。
湿熱とは、邪気の一種で、湿という邪と、熱が結びついたものです。

湿とは、簡単に言えば、余分な水分です。
これに熱が結びつくと湿熱になります。

膀胱湿熱の主な症状は、尿の出がわるく、渋る、排尿痛、排尿時の出血などです。
現代医学でいう、膀胱炎や、尿道炎などでこの症状がよく見られます。

膀胱の湿熱の治療には、滑石、猪苓、木通などをつかいます。
主な処方は、八正散です。


望診

望診とは、病人の身体を見て診断する方法です。
望診の中でもっとも重要なのは、舌診です。
舌診については、このホームページでも詳しく解説していますから、ここでは説明しません。
舌診以外で重要なのは、顔色の診断です。
顔色全体が赤黒い時は湿熱や淤血。
青白い場合は、肝寒。
黄色い場合は脾に問題がある。
鼻が赤い時は、肺または脾に熱がある。
黒い場合は、腎に問題がある。
などなどです。
子供の場合は、指の色で診断する方法もあります。

また、病人の雰囲気を掴む事も大切です。
目がしっかりしている人は、病気が重くてもなおりやすいものです。
これに反して、目の焦点があっていないような場合は、状態が悪い事を意味しています



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